「ナガレ無頼 地獄のどぶ鼠」(幕末人斬り人別帖)
Op.10(巻末サインは1967年6月25日)、B6版26ページ、単行本未収録
COM(虫プロ商事)1968年5月号別冊付録ぐら・こん1
ペンネームは真崎 守(・なし)

幕末の京都、浪人・源吾は生活のために人斬りに身をやつし、討幕派から仕事を請け負っていた。

彼がまた人斬り仕事をこなした直後、勤皇にも左幕にも与しない謎の剣客・ナガレが現れ、源吾に足を洗うように忠告する(両者は過去に会ったことがある)
「これがさいごのチャンスだ/もう二度と刺客役はやらんことだ」
「そうでないと/おれとおなじくらい/あんたを殺したがっている/男にやられてしまうぞ」
そこでナガレに「おい!そこで立ち聞きしている人/出てきてもらおうか」と言われ顔を出したのは新選組・沖田総司(ナガレとも源吾ともこれが初対面)、彼は新選組隊士が何人も源吾に斬られているため始末しようと思ってつけてきたが、ナガレが源吾をどうするつもりか興味がありその場は手を引いた。

やがて源吾は、病気の妻の「もう人斬りなんて止めてっ」という懇願を振り切り「これが最後の仕事だ」と言って出掛けて行く…

テーマは「思想も誇りもなく、ただ生きるためにのみ人を斬るのは是か非か」


「リンネの輪」
Op.番号なし、24ページ、単行本未収録
週刊漫画アクション 1970年10月22日号(双葉社)
扉から4ページ2色カラー

賭麻雀の負けを体で払った後藤部長夫人、男はそのテープを後藤部長と次期重役を争うもう一人の部長のところに持ち込んだ。

その情報を入手した後藤部長は相手が恐喝でテープを手に入れたという筋書きを書いて逆襲に転じるが、かつて(後藤部長に)恋人を奪われた部下が会長にそれを報告する。

会長はスパイとして使ったその男(後藤部長の部下)が私怨で行動したことを非難し彼を部長にするという約束を反故にする。

さらにこの件で会長は息子である社長との賭けに負けることになり…

一体誰と誰がつるんでいて、最後に笑うのは誰なのか。7人の男女が騙し騙され二転三転する、「人生なんて全てギャンブルさ」という洒落の効いた佳品


 

「そこだけの暗闇」
Op.56、巻末サインは1969年4月、17ページ、単行本未収録
ヤングコミック 1969年5月13日号(少年画報社)
COM 1970年10月号に再掲載(虫プロ商事)

江戸・千駄ヶ谷、結核で療養中の沖田総司のもとに看病に通う女、実は総司が京都で心ならずも新撰組の任務で斬った医者の娘で、そのことを詫びるため行き来するうち、両者は(はっきりと口には出さないものの)相手を想うようになっていた。
彼女の弟・悟朗はそれが面白くなく、何故父の仇と親しく出来るのかと姉を非難する。

自分が余命いくばくもないことを悟り想いを打ち明けない総司だが、彼女は総司に添い遂げようと決意し、それを知った悟朗はある行動に出る…

永遠の生 無限の死 夢のやどり」

巻頭サインは1983年11月(前編)、26ページ+32ページ、単行本未収録
SFマンガ競作大全集 1984年1月号・3月号(前後編)(東京三世社)

人類が宇宙空間に住めるようになった未来、旧知の古老・アミを訪ねた青年チャンスは、突然アミに撃ち殺される。
クローン再生されたチャンスは生前の記憶を取り戻しつつある中(全ての人間が、生前の記憶を無くさずに再生できるという設定らしい)、以前からの友人でおそらく互いに好意を抱いているレディ・レイの訪問を受ける。チャンスはレイから、クローンは常に一体しか存在を許されず、それに反する違法な存在はシャドーと呼ばれ、シャドー抹殺のためのシャドー・ハンターが存在することを知らされる…

永遠に再生されることに疑問を抱く「原人シンドローム」という言葉、キャラクター設定等、「DEMARCATION 0UT」(1981年2月)と「キスしてくんなきゃ めざめない!」(1986年10月)との共通要素が多く感じられる作品です。


「キスしてくんなきゃ めざめない!」(連作/眠らない子供たち ACT.1)
巻頭サインは1986年6月、50ページ、単行本未収録
コミックMOMOCO 1986年10月5日号(学習研究社)

設定の詳細は良く解らないが地球が核戦争で滅び人類のクローンが月に住むようになった未来の話。
レディ・レイ(狙撃手?)は所長(何の所長なのか、作品を読んだ限りでは不明)に呼び出され、前任所長で今は下野しているアミの抹殺を指示される。「昔から不審な噂はあったが、最近になって(アミを)処分する新しい証拠が見つかった」と言うだけで具体的な説明は受けられないまま、任務遂行のためレイはアミに会いに行くが…

キャラクターは「永遠の生 無限の死 夢のやどり」(1984年1月・3月)に酷似しており物語の設定も重なるところが感じられます。


「冬ざれ」
Op.108、巻末サインは1970年10月、31ページ、単行本未収録
週刊少年チャンピオン 1970年11月23日号(秋田書店)
扉のみフルカラー

継母に反発する狂児は、家出する金欲しさに仲間と狂言誘拐を実行する。継母は狂言と気付きつつ、狂児を取り戻すために金を用意し指定された場所に向かう…
愛に餓えているがゆえに素直になれず周囲に反発する少年と、なんとかそれを包み込もうとする継母の対決が描かれています。

作品には主人公を気にかける少女美佐も登場。このキャラクターの容姿(ユキに似ている)と主人公の名前が(今作の2ヵ月後に少年マガジンで連載が開始される)「キバの紋章」を連想させます(その他の設定に共通点はありませんが)

「日ぐれに雪がふり出した…」

巻末サインは19601023日、20ページ、単行本未収録

貸本誌「街」No.46196012月発行?(セントラル文庫)

32回新人コンクール入選作品

PNはもり・まさき

 

継母に反発する高校生(あるいは中学生)牧伸次は、受験に失敗し家出して大阪に行く金欲しさに仲間の狂二を誘い狂言誘拐を実行する。

身代金の五十万円を持ち指定された小屋に行った継母は、隣の部屋から伸次が覗き見る中、彼を取り戻すため狂二と対決する…

 

10年後に少年チャンピオン(19701123日号)に発表される「冬ざれ」の原型とも言える作品ですが、「冬ざれ」での継母が狂言を知りつつ毅然な態度と継子への愛情を見せるのに対し、今作では狂言とは疑わず、ひたすら継子を思う一途な母親として描かれています。

 

 

「水の底」
Op.101、巻末サインは1970年6月、20ページ、単行本未収録
ビッグコミック 1970年7月25日号(小学館)
PNは「真崎 守」(・なし)

ダム建設のため湖底に沈む予定の村を、古道具を個人的な趣味で集めている男(名前は出てこない、年齢は20代後半から30代後半くらいか?)が東京から訪れた。既にほとんどの家が古道具を処分していたが、村人から「谷の下に住んできるイネは何も手放していないはずだ」と聞かされ彼女の家に行く。
一人暮らしの彼女(年齢は男と大差ないと思われる)は何も手放していないしこれからもそのつもりはないと言うが、男もすぐには引き下がらない。夜になり蚊が出てきたので泊めてもらおうと家に入った男はイネの寝姿に欲情して関係を結ぶ。翌朝彼女が発熱したことで男は看病のため足止めを食い、そのままずるずると肉欲の日々が過ぎる。

そろそろ東京に帰ると言う男に、イネは「ここにあるものは何でも持って行っていいけれど、蔵の中には手をつけないで」「もしもう一度来てくれたらその時に蔵の中のものも全部あげる」と言い、彼は再会を約束し村を去る。

男は自分がイネに溺れ始めていることを自覚しつつ、再び村を訪れた。皆立ち退いて無人となった村で彼女との肉欲に溺れる日々が続き、ついに男は蔵の中に案内されるが…


「風塵」(連作/プロフェッショナル列伝VOL.2 幕末の下っ引きの場合)
Op.番号なし、巻末サインは1968年12月23日、32ページ、単行本未収録
週刊漫画アクション 1969年1月16日号(双葉社)

武士の金を盗み町人に配る義賊「闇の猫」、サムライに押さえつけられた庶民の憂さを晴らしてくれる存在ゆえ密かな人気もあるが、下っ引きの弥八は「義賊だろうが何だろうが盗人は盗人」「自分の仕事は悪い奴を捕まえること」と、正義感ゆえ闇の猫捕縛に執念を燃やす。

ある夜、闇の猫に屋敷に押し入られたため追跡中の武士・松永平八が、道でお美代(弥八と親しい)の父親を出会い頭に切り捨てる(当人は無礼打ちと言うが言い掛かりに等しい)。それを見た闇の猫が松永に言った台詞「関係のない町人に手をかけるなんて許せねえ」その言葉が弥八の胸に突き刺さる。
「オイラその時、自分の言いてえセリフを奴に言ってもらったような気がして、妙な気持ちになったのさ」

当然ながら松永平八は罪に問われない。サムライの殺人を見逃し盗人捕縛だけを命じるお上と自分の仕事に疑問を持ちつつ、闇の猫がお美代の父親の仇を討つため松永を呼び出したと知り、弥八はその場所へ向かう。

正義と偽善、(悪を滅ぼすために今の仕事に就いたのに)本当に悪い奴が解っても手を出せないという矛盾した立場ゆえの苦悩、「風の中から」第一話に通じる作品と言えましょうか。


「過ぎ去らぬ日々」(連作/プロフェッショナル列伝VOL.4現代篇(1)プロ・パチンカーの場合)
Op.54、巻末サインは1969年3月、24ページ、単行本未収録
週刊漫画アクション 1969年4月17日号(双葉社)
ペンネームは真崎 守(・なし)

23歳のOL・サッチンは、行きつけのパチンコ屋で流れ者のプロ・パチンカー有馬と出会う。親子ほどの年の差がある(と思われる)二人は、アパートの部屋が隣同士(有馬が引っ越して来た日に出会った)ということもあり親しくなるが、サッチンは両親、有馬は妻子を戦争(空襲)で亡くしていた。
そんなある日、パチンコ屋の店主が有馬に勝負を申し込む。店主があらかじめ全台の釘を厳しく調整しておき、店を全休にして12時間打ちっ放しの条件で、釘師とパチンカーの名誉を掛けた戦いが始まった…

戦争という過去を引きずり、それに縛られて生きる人間の再起のドラマ。

 

「死にゆく奴の子守唄」(連作/プロフェッショナル列伝VOL.5 ある殺人者の場合)
Op.58、巻末サインは1969年5月、16ページ、単行本未収録
週刊漫画アクション 1969年5月22日号(双葉社)

主人公は一部では少しは知られている殺し屋、名前は…いや、殺人者に名はない(という設定)。
痔を患い「殺すことは思想である…」と呟く、殺し屋としては一風変わった彼に「某商事会社で起きた汚職事件の責任を無関係の社員に取らせるため、自殺に見せかけて抹殺せよ」との指令が下る。

一方、ターゲットとされた男は定年間際の係長で、女房の尻にしかれ、会社では部下に無視される絵に描いたようなダメ社員。社長に呼ばれ「家族が不自由しないだけの金を用意するから、会社のために死んでくれ」と言われてショックを受け、帰宅の途につく。

放心状態で家路を辿る彼を尾行する殺し屋、任務遂行は時間の問題と思われたが…

世の無常をシニカルタッチで描いたコメディ作品と言ってしまえばそれまでですが、全編に漂う「しらけムード」が当時の世相の一面を反映してると言えましょう。


「破れ三度笠」(連作/プロフェッショナル列/VOL.11/股旅篇)
Op.90、巻末サインは1970年3月、24ページ、単行本未収録
週刊漫画アクション 1970年4月2日号(双葉社)

とある宿場町におたずね者の源次が帰って来た。
町の連中は源次が復讐のために戻ってきたと思い騒然となる。皆、かかわりを持つまいと近づかないが、飲み屋の主人とその娘(今でも源次に惚れている)だけは話相手になる。
源次はかつて、おみねという女と恋仲だったが、今は宿場の親分となった男(源次とは昔からの友達)に無実の罪を着せられ逃亡、その後おみねは親分の女房になった。飲み屋の主人はおみねが親分の世話になりけっこう落ち着いているようだと言うが、源次は(親分が)俺の女房になるはずだったおみねを無理やり奪ったんだからそんな筈はないと憤る。

間もなく親分と対面した源次だが、簡単に捕まり物置に放り込まれる。
縄に縛られた源次に対し、おみねはこう言い放つ。
「あたしゃ、今の生活をすてたくないんだよ」
「佐渡送りになるようなおたずねモンにこわされたくないよ」

夜中になり飲み屋の娘が源次をこっそり助けに来る。刀を手にした源次は早く逃げたほうがいいという娘の言葉に耳を貸さず、再び親分のところへ乗り込む…


「因果律なんて知らないよ」(連作/はみだし野郎の子守唄vol.7)
Op.74、巻末サインは1969年11月、20ページ、単行本未収録
ヤングコミック 1969年12月9日号(少年画報社)

主人公は一介のサラリーマンなのに社長より偉く、女房を下僕のように扱い浮気のし放題、タクシーには刃物をちらつかせ無賃乗車、デモの行列も彼の命令で裸になって海に飛び込む。何でも思うがままの彼は最後に国会議事堂に乗り込む…

一言で言えばナンセンス&オフザケ型の逆転アナ-キーギャグ。絵柄もかなりくだけたタッチで、単行本に収められた他の子守唄作品とは雰囲気が大きく異なります。 

ちなみに、Op.番号が74となっていますが、これは「北へ急げ」とダブっています。巻末サインは69年11月となっており、「北へ急げ」(同69年9月)より遅く描かれたとの推測は可能です。


「その時わたしは」(連作/はみだし野郎の子守唄Vol.11)
Op.82、巻末サインは1970年1月、20ページ、単行本未収録
ヤングコミック 1970年2月10日号(少年画報社)

結婚したら女は損、そう思いながら仕事に打ち込みオールドミス(もはや死語?)になった柴崎ケイコ。
社内の売れ残り三人組の仲間だったおユミとノンコが相次いで結婚し(独身からの)脱落と揶揄しながらも何となく心中穏やかではない。
結婚とSEXは別問題という主義に則り社内に枕を交わす相手(妻帯者)もいるが、その男に「セックスアピールは30点」と言われて(言った方は悪気なし)女としてのプライドが傷付く始末…

女性上位とか性の解放、結婚とSEXは別という言葉が70年代前半という時代の世相を反映しています。


「遭難」(連作/はみだし野郎の子守唄vol.12)
Op.83(巻末サインは1970年1月)、21ページ、単行本未収録
ヤングコミック1970年2月24日号(少年画報社)

かつて雪山で遭難した時のことを回想する主人公…

名も知らぬ行きずりの登山者と一緒に登り遭難した時、彼(=行きずりの登山者)は主人公が死ぬために登山したことを知りながら最後の食料を渡し下山させた。

そして、足が動かないことを理由に自ら山に残った彼は自衛隊のヘリに発見されるが…

「海の神話」(連作/はみだし野郎の子守唄vol.13)
Op.84、巻末サインは1970年2月、20ページ、単行本未収録
ヤングコミック 1970年3月10日号(少年画報社)

断崖で出会ったちょっと軽い感じの男と無愛想な女
「海が/好きなン/かよ」
「別に…」
「なんで/こんな所に/いるんだよォ」
「べつに/あんたは?」
「べつに」
その下の海岸で毎日黙々と漁に勤しむ老婆

3人の登場人物は総じて無表情(男はサングラスを掛けているので表情の変化が覗えない)で台詞も少ない(その中ではまだ男は喋っているほう)。

静かなたたずまいの中にどことなくシュールレアリズムとニヒリズムの雰囲気が漂う、子守唄シリーズの中では異色の作品。


「海の神話」(再録)
Op.84、巻末サインは1970年2月、20ページ、単行本未収録
週刊漫画アクション 1972年12月14日号(双葉社)

「共犯幻想」急病休載の穴埋めとして旧作を再録したとトビラ下端に記されていますが、ヤングコミック版に対し下記3つの変更点が見られます。
変更1)タイトルページから「連作/はみだし野郎の子守唄vol.13」の文字が消えた。
変更2)男が歌う歌詞(と思われる台詞)のフキダシが10あったが、そのうち8つから文字が消されている(フキダシの中は音符マークだけ)。
変更3)初出時は広告の入っていた部分(11ページ目の下半分)にコマを入れた。


「ドスのあンちくしょお!」(連作/はみだし野郎の子守唄Vol.15)
Op.89、巻末サインは1970年3月、20ページ、単行本未収録
ヤングコミック 1970年4月14日号(少年画報社)

BAR「汐」のホステス・エッコは旅行中のママの代りに店の2階に寝泊りしていたが、閉店後にドスを持った男が押し入って来る。
おどおどしている男を尻目に彼女は寝るが、翌朝の新聞で、男があまり評判の良くない有名大学教授を刺殺した犯人であることを知る。
彼女は、最初は小心者と思っていた彼を見直し、彼をかくまい、彼の味方になることにかつてない胸の高鳴りと生きがいを感じるが…

話のまとまりが秀逸でキャラクターも立っていて、「はみだし野郎の子守唄」単行本化に際して漏れたのが惜しまれる佳品だと思います。


 

「現行犯」(連作/はみだし野郎の子守唄Vol.17)
Op番号なし、18ページ、単行本未収録
ヤングコミック 1970年5月12日号(少年画報社)

グループスリで最後に品物を持って逃げる「吸い取り」を任されたコージは現行犯で捕まり、前科がないため短期で出所した。
おやっさん(通り名は「ちぼ源」)から「今度現行犯で捕まったらクビ」と厳しい宣告を受けるコージだが、ちぼ源の妻(後妻で子供もなく、ちぼ源より二十歳も若い)・小春はコージをかばう。

やがてコージは小春への想いが募ってゆき、それは同時におやっさんに勝ちたいという、(スリとしての)ライバル心を育てていく。  
ついにコージはおやっさんの留守中に小春と関係を持ち、想いを打ち明ける。それを知ったおやっさんはある行動に出る…

「現行犯」という言葉を、「スリ」と「男女関係」の双方の「現場を押えられる」という二つの意味で使っているところが真崎守と言えましょう。


「十字路」(連作/はみだし野郎の子守唄Vol.18)
巻末サインは1970年4月、Op.95、23ページ、単行本未収録
ヤングコミック 1970年5月27日号(少年画報社)

某月某日某所(夜の路上)で口論する男女、女は産むといい、男は別れを告げる。
別々の方向に歩いて行った二人だが、女がふと足を止め戻ろうとした時、二人組の若者が彼女を強引に車に押し込み乱暴目的で連れ去る。
男も引き返し、路上に放置された靴やハンドバッグとタイヤ痕から現場にたどり着くが、全てが終り若者たちが去った後だった。
男は地面にあおむけに倒れている彼女を助けずに無言で去る。

やがて時が経ち、暴行した若者二人組の一人はまもなく結婚、もう一人も女と付き合っているらしいが、一人が交通事故で死ぬ(車運転中の自爆死)。
彼女を見捨てた男は、新しい女と結婚前提で付き合っている。

そして、彼女が現われる…

自分の人生を台無しにした男たちへの復讐劇。
運命の交差点あるいは別れ道としての「十字路」


「影も光も」
Op.番号なし、20ページ、単行本未収録
ビッグコミック 1971年7月1日号増刊号異常ミステリー特集(小学館)

なかなか会えない彼氏からの電話を会社のオフィスで待ち続ける女。
忍ぶ恋ゆえ自分から電話をかけることが出来ず、ひたすら待ち続ける女は次第に精神が不安定になり、いつでも電話を取れるようアパートの自室に電話を置くが…

ミステリー特集と言う掲載誌の性格を意識してか、筋立てはシンプルにして心理描写に重きを置いた感があります。

「DEMARCATION 0UT」(デマケーション・アウト)
32ページ、単行本未収録
ポップコーン 1981年2月号(光文社)
扉から8ページ2色カラー

人類の惑星間航行か可能になった未来の話。
新しい惑星を探す宇宙船に乗込んだ7人の伍長たちは、いつしか理由もなく逃亡者と追跡者に分かれるようになった。
実は彼ら伍長たちは、宇宙船に乗り込む前は原人(=全体調和に迎合しない、旧人類の資質が現れる人間のこと)狩りのために育成されたソルジャーであり、その彼らが(原人狩りの)指令解除の後、自分の正直な心に感応し、逃亡者(原人)と追跡者〈新人類〉のいずれかに分かれたのである。
相手の痛みが解るということはどういうことか。全体に迎合しない個を認めるとはどういうことか。そして追跡者・逃亡者合わせて5人が消息を断ったゼロ・ポイントで待つものは何か…

作品タイトルのDEMARCATIONとは「限界を定めること」だそうです(注釈が扉の下に書いてある)が、雑誌表紙には「原始人間狩り」と記してありますので、当初のタイトルはこちらだったのかもしれません。


「波は何も云わない」

PNは「もり・まさき」

Op番号なし、巻末サインは19614月、14ページ、単行本未収録

貸本「街」(セントラル文庫)No.511961年発行)

37回新人コンクール入選作品

 

主人公の刑事・森は、自分の姉を殺して逃げた犯人を長い間探した結果ようやく逮捕し、本署への連行途中に海辺を通りかかった。

 

犯人が「これからは一生暗い所(刑務所)で暮らすのだから、太陽と潮風を感じながら休みたい」と願い出たため、森は彼が逃げられないよう手錠を岩につないで、近くの荒木町(彼の出身地)に知り合いを訪ねに行く。

 

荒木町で同僚の宮脇刑事に迎えにくるよう電話をし、幼馴染みの女性(名前は出てこない)と懐かしい時を過ごす森、やがて時刻は夕方になり、そこで「姉を殺した犯人をようやく捕まえ、びょうぶ岩につないで来た」ことを話すと彼女の顔色が変わった。

「大変だわっ、あそこは日暮れになると潮が満ちてくるわよっ」

 

「波は何もいわない…」(連作・鎖びついた命/何もいわない三部作/終章)

Op.24、巻末サインは1968413日、17ページ、単行本未収録

コミックmagazine1968514日号(芳文社)

 

主人公の刑事・仲谷は、自分の姉を殺した犯人(ただし姉の件は当時自殺とされ、あくまでも別の殺人での指名手配)である黒木を彼の地元でようやく逮捕し、連行中に殺害現場の断崖に連れて行く。

 

「おめえの姉さんは、この崖から飛び降りて自殺したんだ」と言う黒木に対し、仲谷は「あの日、きさまは姉と二人でこの崖の上にいた…」と黒木が突き落としたことを主張する。

仲谷は崖から見える洞穴を指さし、事件当日そこに女がいて一部始終を見ていた、そしてその彼女は自分の恋人だったことを告げる。それでも「おれが殺したんじゃねえっ/あいつが飛びこんだんだぜっ」「おれじゃないっ/信じてくれっ」と叫ぶ黒木を洞穴内の岩に縛り付け、仲谷はとなり町に住む彼女に会いに行く。

 

となり町から上司に逮捕の報告電話をした後、仲谷は5年ぶりに再会した彼女とベッドを共にする。夕方になり犯人を件の洞穴に縛り付けたことを話すと彼女の顔色が変わった。

「あそこは日ぐれになると潮が満ちてきて/ホラ穴は水いっぱいになってしまうわ」

 

7年前に貸本「街」に掲載された同名作品のリメイクと言えますが、黒木が本当に犯人だったのか、それが断定できないよう描かれているあたり「二つの視点を用意する」真崎守スタイルの特徴が窺えます。

 

「雨は何もいわない…」(シリーズ「錆ついた命」VOL.1

Op.14、巻末サインは1130日、17ページ、単行本未収録

コミックmagazine19671226日号(芳文社)

ペンネームは真崎 守(・なし)

 

夫婦揃ってヤクザから足を洗って2年、亭主が仕事もせずに飲んだくれているため、昔の親分(?)に金を借りに来る志麻。

 

親分は、彼女が過去の仕事(麻薬の運び屋)を警察にばらせば自分の身が危ないことを知りつつ金を貸し続ける。

そして刑事たちは、親分をブタ箱にぶち込むために、彼女から証言を引出せないかと付き纏いながら機をうかがう。

 

何かアクシデントが起これば、現状のその危ういバランスが崩れるのではと危惧されるある日、彼女の子供が車にはねられる。

運転手の証言では子供は誰かによって車道へ突き飛ばされたらしい。

誰が一体(何のために)そんなことをしたのか…

 

志麻、亭主、親分、刑事、四者四様の想いが交錯し絡み合う人間ドラマです。


「雪は何もいわない…」(連作/錆びついた命)

Op.22、巻末サインは19683月、17ページ、単行本未収録

コミックmagazine196849日号(芳文社)

ペンネームは真崎 守(・なし)

 

下界は春だが山上はまだ冬のとある日、八雲四郎は山小屋の主人が危険だからと止めるのも聞かず、北の岩溝に向けての登頂を開始した。

主人の話では彼の前にもう一人、同じように登って行った男がおり、四郎は途中の小屋でその男・黒井に追いついた。実は四郎は去年一昨年と同じ日に同じコースで登山しており、黒井はそれを知ってやって来たのだった。

 

3年前の同じ日、四郎の兄・一郎は黒井とパーティを組んでこの山に登り、一郎だけが遭難し遺体はまだ発見されていない。残された一郎の日記の当日分は破り取られており、四郎は、恋人あおいを奪われた黒井が一郎を殺したのだと考えていた。

一郎の死は事故であり、殺人の疑いやあらぬ噂で人生が狂った自分の方が被害者だと主張する黒井と、彼の殺人を信じて疑わない四郎は共に事故当日と同じコースを辿るが、天候悪化により遭難の危機が迫る。

 

自分が救援隊を呼びに下山するから君はここ(山)に残れと言う黒井に対し四郎は言う。「山へ登る時/手紙をかいてきた/オレがあんたと遭難した時は殺されたと思えと…」「この手紙をかいてきた以上/あなたは一人で山をおりることは断じてできない」

すると黒井も答える。「なるほどうまい手だ」「だが私もそっくり同じ事をしてきたよ」

 

「つまり…生き残ったほうが」「殺人者になるわけだ」

 

「俺だけの夜」
Op.88、巻末サインは1970年3月、33ページ、単行本未収録
明星 1970年5月号(集英社)

親元を離れ東京のアパートで一人暮らしをしながら受験勉強をしてきたが大学に合格できず、もう一年(?)浪人となった主人公。
仕送りの2万円をポケットに入れ、荒んだ気持ちで夜の街をさまよい歩くが、チンピラに因縁をつけられ殴る蹴るの暴行を受けた挙句仕送りを巻き上げられる。
一部始終を見ていた女性がハンカチを貸してくれ、短い会話の後に去るが、彼は彼女を襲うために後をつけ、彼女の部屋(アパートで一人暮らし)に押し入る…

掲載誌が「明星」という芸能誌であることを意識してか、思春期の鬱屈を描きながらも、刃傷沙汰のような救いのない話にはなっていません。
作中にビートルズの曲(ゲット・バックとかオブラ・ディ・オブラ・ダとか)が流れているのも掲載誌と言うか読者層を意識してのことでしょうか。


「狼・地獄へいそぐ」(地獄狼伝)
Op.番号なし、巻末サインは1966年10月11日、16ページ、単行本未収録
サンデーP.M 1967年11月2日号(一水社)

主人公・狼(本名は出て来ない)は、5年間、復讐のためだけに生きてきた。
5年前、四角い顔の男(本名は出て来ない)は(それまで普通の暮らしをしていた)狼の自宅に押し入り、母親を殺し、片目を潰し、金と恋人を奪って逃げたのだ。
それ以来、彼(=狼)の時間は止まったまま、ひたすら復讐の機会を狙っていた。

情報屋から四角い顔の男が警察に捕まり刑務所に送られることを聞いた狼は、護送車を襲って男を殺すために待ち伏せをする(情報屋と、狼に惚れている女も同行)が、眼前で別の車が護送車を襲い男は逃走する。
狼はその車を追い、とある別荘にたどり着くが、男は狼の行動を知っていた。
誰かが狼の行動を密告していたのだ。
そして四角い顔の男と対峙した狼は、信じられないものを見る…

1987年~1969年に渡って一水社の雑誌(サンデーP.M→劇画コミックSunday→劇画コミックサンデー)に20回以上掲載された地獄狼シリーズの第一作目ですが、この時点では連作の表記はありません。
また、PNは「真崎 守」(・なし)ですが、何故か「まさき まもる」とルビがふってあります。

 

「おくり火」(地獄狼伝)
Op.12、巻末サインは1967年10月22日、9ページ、単行本未収録
サンデーP.M 1967年11月16日号(一水社)

未曾有の台風による被害で三分の一が壊滅した村。
濁流に流された叔父を弔うため、女(名前はさなぎ)がおくり火の前に座っているところに地獄狼がやってきて話しかける。

さなぎは、濁流に耐えながら叔父が握っていた(もう一方の端は彼女が握っていた)命綱が切れてしまい、たった一人の肉親(はっきりと描かれてはいないが、作中よりそう思われる)を失ったことの悲しみで、おくり火の前を離れようとしないように見えた。
しかし、叔父の死の真相はそうではなかった…

一人の男の死に対する二通りの解釈を同列に並べるあたり、後の真崎守が得意とする“2つの視点で物事の本質を問い掛ける”スタイルの萌芽が覗える作品です。
まだ「連作」との表記はありませんが、1ページ目の欄外に小さく(死と対立する狼→第2弾)と書かれています。


「獣のとむらい風」(地獄狼伝VOL.3)
Op.13、巻末サインは1967年11月5日、16ページ、単行本未収録
サンデーP.M 1967年12月7日号(一水社)

投げナイフを武器とする殺し屋・ドス竜は「奴を倒せば殺し屋ランキングを10倍にしてやる」というボスの言葉(何人も抱えている殺し屋たちにそういうゲームをやらせている)を受け、地獄狼と対決する。

地獄狼は対峙するドス竜に問う「あんたは生きたいのかね、死にたいのかね」
質問の真意を図りかね答えられないドス竜に対し地獄狼はこう告げる「生きていたいようだな」
ドス竜は勝負に敗れたが、腕を撃たれただけで命は助けられた。

次なる刺客としてハジキの名手・テキサスが登場、地獄狼が気になるドス竜は同行して対決に立ち会う…

地獄狼の子分または相棒的存在となるドス竜の初登場作品で、物語は徹頭徹尾、彼の視点で描かれています。
これまでドス竜が出会った殺し屋たちと明らかに違う雰囲気を持つ地獄狼、彼はなぜ闘うのか、あるいは何と闘っているのか、それを確かめるべくドス竜は狼の後を追う…

 

「故郷で傷だらけ」(地獄狼伝・4)
Op.14、22ページ、巻頭から8ページ2色カラー、単行本未収録
サンデーP.M 1967年12月28日号(一水社)

ドス竜を伴い生まれ故郷の飛騨高山に帰って来た地獄狼。
地獄狼を追う殺し屋・死神ジョー(前作「獣のとむらい風」で敗れて死んだテキサスの兄)、そして地獄狼の首には(テキサスやジョーのボスとは別の誰かから)2千万円の賞金が掛けられていた。

故郷で地獄狼は(かつて恋仲だった)バー「深雪」のママ・みゆきと再会し、ドス竜はバーテンから地獄狼の過去を聞き出す。
バーテンの話によると、かつて地獄狼の母を殺し片目を奪った“四角い顔の男”(「狼・地獄へいそぐ」既出)は実は手先に過ぎず他に黒幕がいるとの噂があるらしい(が、それを知っての帰郷かどうかは解らない)

地獄狼とみゆきは一夜を共にし、翌日、二人で母親の墓参りに行くが、そこには死神ジョーが待っていた。一触即発状態の両者の前に突然、地獄狼ともジョーとも初対面の“ダンナ”と呼ばれる親分風の男が現れ待ったをかけたため、勝負は翌日に延ばされる。

一方、バーのホステスとねんごろになったドス竜はみゆきのパトロンを洗いだし、その“ダンナ”に行き当たる…

ヤングコミック1972年1月26日号に掲載され青林堂の単行本「ながれ者の系譜第三部、地獄狼篇」に収録された「血まみれの墓標」のベースになったような作品で、似たようなシーンが出てきますが、地獄狼が対決する相手の素性を事前に知っていたか否かという重要なポイントが異なっています。

ちなみに、バーテンがドス竜に語った“地獄狼の過去”は
・5年前、四角い顔の男に母を殺され恋人を奪われた(「狼・地獄へいそぐ」に描かれた通り)
・その時、彼はまだ学生だった。
・その後卒業して刑事になった。
・しかし一人の男ばかり執拗に探し求めたため(警察内での)風当たりも強かった。
・その後、警察を辞めた。
と言う内容でした。


「こぼれ陽」(地獄狼伝VOL.5)
Op.番号なし、巻末サインは1967年12月、16ページ、単行本未収録
サンデーP.M 1968年1月25日号(一水社)
PNは「真崎 守」(・なし)

飛騨奥地・日和田、過疎化が進み“陸の孤島”のような(と、作品中で登場人物が言っている)未来の感じられないその地区へ、一日一往復の路線バスが運行されている。
その“いきづまり”(=バス路線の終点)に向かうバスに5人の男女が乗っていた。

①かつて大阪で行き詰まり、日和田にやって来て教師を続けながら今なお晴れぬ悩みを抱える男・峠
②日和田出身で今は地元を離れておりたまにしか帰省しない娘(会話から察するに峠のかつての教え子か元同僚で、峠に求婚しているらしい)
③取材のために日和田を訪れるという剃髪の男
④地獄狼
⑤ドス竜

村につくと峠は授業のため学校に向う。帰りのバスが出るのは夕方のため、地獄狼は何を考えてか一人にさせてくれと言い、ドス竜と剃髪男は娘の案内で名所や伝説の地を見て周る。

村にはおばばがワラをツチで叩く音が響き渡っている。彼女は峠が言うところのこの“地の果て”で、40年間ずっとそれを続けて来たのだ。

再び一堂に会した皆に対して地獄狼は言う「みんな気がついているんだ、あのツチの音を」「あのひびきを…」

殺し屋が出てくるのに決闘がない(地獄狼は銃を抜かず、殺し屋も発砲しない)という異色の作品。

 

「血まみれの墓標」(地獄狼無頼伝 第6弾)
Op.17、巻末サインは1968年1月、24ページ、巻頭から4ページ2色カラー、単行本未収録
サンデーP.M 1968年2月22日号(一水社)

郷里の北海道(蝦夷富士=羊蹄山が見えて湖が出てくるので、洞爺湖あたりか?)に単身帰ったドス竜は。伊伏銀という男に間違われ刺客達と3対1で闘い勝つが自らも重傷を負う。

その報せを受け北海道に駆けつけた地獄狼(同じ飛行機に若いカップルと目の鋭い男が乗っていた)に対し、ドス竜は帰郷の理由を頑として話さないが、(ドス竜を助けた地元のおやじから)彼が伊伏銀という男に間違えられたと聞き、地獄狼は興味を持つ。
ドス竜は「伊伏銀には妹が三人いて、末の妹が死んだ時にその男も死んだ」と言うが、ドス竜なじみのバー「銀」のママ・雪は「生きている筈だわ」と断言する。
また、地獄狼と同じ飛行機で北海道に来たカップルも当地に来ており、どうやら伊伏銀と過去にかなりの因縁(女の方はかつて伊伏にプロポーズされたとか)があるらしい。
「おまえは伊伏銀という男に間違えられてやられたんだぜ」「やった奴を探す糸口はその男を洗う以外にないんだ」「知っていることがあったら教えてくれないか」と言う地獄狼に対し、ドス竜は「…あと三日、二月二十日が過ぎれば全て判る」「それまで放っといてくれないか」とだけ答える。
地獄狼は雪から伊伏銀のことを聞き出すが、二月二十日とは彼の死んだ妹の命日だった…

復讐を果たし、目的を失った時が地獄の始まり、それを知っているからこそドス竜に同じ道を歩んでほしくない、そんな自分を見てきたお前なら判るはずだと言う地獄狼に対し、そういう地獄狼に自分の姿を見つけたからこそ今までついて来たと言うドス竜。
復讐という同じ運命を背負った二人の男の魂が交錯する…

ちなみに、ヤングコミック1972年1月26日号に掲載され、青林堂の単行本「ながれ者の系譜第三部、地獄狼篇」に収録されている同名作品「血まみれの墓標」と、本作品の内容に共通点はありません(共通点があるのはvol.4の「故郷で傷だらけ」の方)
また、この回から地獄狼伝→地獄狼無頼伝に変わったようです。


「鎮魂歌」(地獄狼無頼伝 第七弾)
Op.19、巻末サインは1968年2月、19ページ、巻頭から4ページ2色カラー、単行本未収録
サンデーP.M、1968年3月21日号(一水社)
PNは「真崎 守」(・なし)

とある牧場(の家)に、となり町に住む奇羅(キラ)という男と手下計3名が馬に乗り押し掛けてくる。連中はその牧場のじぃ(使用人か?、それとも祖父か?)を運んできたが彼は既に死んでいた。さらに牧場の姉弟・ユミとサトルにも手を出そうとするが、たまたまその家で昼食を馳走になっていた流れ者・地獄狼が銃で追い払う。

姉弟の父である牧場主(名前は出て来ない)は再婚予定の女・春子と牧場内の離れた所にいたため騒ぎに気付かず、戻ってから愕然とする(翌日挙げる予定だった結婚式は、じぃの葬儀のため延期になる)。
同日、奇羅は腕利きの用心棒を雇うが、それは他ならぬドス竜だった。
その夜、地獄狼はサトルから、奇羅は姉弟の母(牧場主の前妻で何者かに撃ち殺された)に惚れていたために牧場主を逆恨みし犬猿の仲であることと、ユミが地獄狼のことを好いているらしいことを聞かされる。

翌朝、皆がじぃの葬儀に出かける中、春子は頭痛がすると居残るが実は仮病で、薬を持って行った地獄狼を誘惑し(当然、金目当ての結婚で牧場主のことを愛してなどいない)自分の力になるよう頼み込む。その際、地獄狼は彼女のベッドで拳銃を見つけ不審に思う。
そしてその頃、奇羅たちとドス竜は、地獄狼と晴子しかいない牧場に迫っていた…

地獄狼までもが馬に乗って撃ち合うあたり、完全に西部劇を意識した作品になっています。
アクション仕立てが目立つ中、今作のポイントは、地獄狼(のカッコよさと強さ)に憧れるサトルに対し狼が残した台詞と言えましょう。

「さっき闘おうとしたあの気持ちを忘れるな」
「きれいな手で一生闘いぬいていけ」
「人に頼ろうとしないで自分の力でな」


「砂の柩」(連作/地獄狼無頼伝Vol.8 殺人者の孤独シリーズ第一話 葉隠幻の場合)
Op.番号なし、巻末サインは1968年4月21日、20ページ、単行本未収録
劇画コミックSunday 1968年5月30日号(一水社)
扉から4ページ2色カラー

年老いた殺し屋・葉隠幻、彼は戦争で生き残り、殺意を完全燃焼出来なかった過去を後悔し、そのケリを着けるべく殺しの日々を送っていた。
地獄狼と出会い、葉隠は自分の過去を、地獄狼は自分の未来を相手に感じる。


互いに空虚な日々を送る殺し屋二人が、自分にケリをつけるべく対決する。

ヤングコミック1972年1月12日号に掲載され青林堂の単行本「ながれ者の系譜第三部、地獄狼篇」に収録された「狼は二度吠える」のベースになったような作品で、似たようなシーンも多く出てきますが、二人の対決理由というストーリィの根幹部分が異なっているところが注目されます。


「鉄の柩」(連作/地獄狼無頼伝vol.9 殺人者の孤独シリーズ第二話 暗殺者サドンリィの場合)
Op.29、巻末サインは1968年5月19日、28ページ、単行本未収録
劇画コミックSunday 1968年6月13日号(一水社)

出所したばかりのドス竜が拉致された。彼と会うはずだった地獄狼は、バラと名乗る女にノット・オブ・インターナショナル・シークレット・シンジケーション(略称KISS)という秘密諜報機関に案内され囚われの身のドス竜と対面、彼の解放条件として何だか解らないモノの運び屋を引き受けることになる(運び屋のチーム編成は、地獄狼、ドス竜、ハイエナ、バラの4人)

一方、敵側組織スパイダーもその情報をキャッチし、凄腕の殺し屋サドンリィが阻止のため動き出す。新幹線を舞台に地獄狼とサドンリィの対決が始まる…

この作品は前編で、巻末に「以下次号」と記されており、後編タイトルが「風の柩」であることを窺わせています。


「風の柩」(連作/地獄狼無頼伝VOL.10 第2部 殺人者の孤独シリーズ第3話 バラの場合)
Op.32、巻末サインは1968年5月2日、24ページ、巻頭から8ページ2色カラー、単行本未収録
劇画コミックサンデー、1968年6月27日号(一水社)

「鉄の柩」(当HPで2006年8月5日に紹介)の続編、4回に渡り連載される「風の柩」第1回目。

舞台は神戸、六甲おろしの吹き抜ける中、地獄狼はドス竜を人質にしたスパイダー一味4人と対決して勝ち、一味のリーダー・モヒカンを逆に人質に取る。
地獄狼は未だに自分が請け負わされた仕事の内容や背後で何が起きているかが解らないため、モヒカンに事の経緯を尋ねるが、彼は地獄狼の衣類におそらく発信機が勝手に取り付けられていて、それで新幹線で移動中に行方不明になったバラとハイエナ(どちらも地獄狼の味方のはず)もやがてここに来るだろうと意味深に語る。
その言葉通りバラは現れ、不信感を抱く地獄狼は彼女の行動を問い質すがはぐらかされる。
翌朝、いつのまにか縄を解いたモヒカンが逆にバラを人質に取り再び決闘になり、またもモヒカンは敗れるが、バラは闘いのさなかに銃で撃たれ(命に別状なし)地獄狼がナイフで弾丸を摘出する。
さらにハイエナも遅れて登場するが、バラはそのハイエナを偽者と見抜く…

地獄狼一行の任務の目的…というか実態すら明らかになっていないまま、誰が味方で誰が敵なのか、謎は謎のまま、話は次号へ。


「続・風の柩」(連作/地獄狼無頼伝VOL.11 第2部 殺人者の孤独シリーズ第3話 バラの場合その2)
Op.番号なし、16ページ、単行本未収録
劇画コミックサンデー、1968年7月11日号(一水社)
PNは「真崎 守」(・なし)

スパイダーの新たな刺客として、鈴を付けた仕込み杖(針のようなものを発射する)を武器とする男・八ツ目登場。
地獄狼一行(狼、ドス竜、バラ)は神戸山中で八ツ目と対決するが、激闘の末、ドス竜の投げナイフと地獄狼の銃弾で蜂の巣となった八ツ目は川に転落する。
やがて一行は神戸港に着くが、霧の中からあの鈴の音が…

16ページで台詞は手書きの2つだけ(効果音はふんだんに描かれていますが)、八ツ目の登場シーンに4ページ、地獄狼一行との決闘シーンにほぼ10ページを割くという特殊な構成です。

 

「風の柩」(連作/地獄狼無頼伝VOL.12 第2部 殺人者の孤独シリーズ第3話 バラの場合その3)
Op.番号なし、19ページ、巻頭から4ページ2色カラー、単行本未収録
劇画コミックサンデー、1968年7月25日号(一水社)

作品タイトルには「風の柩」とのみ記されているが、シリーズ第3話目。

再び現れた殺し屋・八ツ目、2度目の対決も地獄狼が勝つが、八ツ目を撃ったのは物陰に隠れていた謎の女で、地獄狼は八ツ目の攻撃で手傷を負う。
バラが地獄狼を手当てしている時に気を利かせて外出したドス竜は、死んだはずの八ツ目に遭遇するが、謎の女が再び現れ始末する。実は彼女はハイエナの正体だった。
どういうことか説明しろという地獄狼に対し、バラはようやく今回の任務を説明する。なんと今回の任務の目的は、男に変装したハイエナを神戸に運ぶことであり、ハイエナが本来の仕事を遂行する時に敵の注意をそらす囮を演じることだったと言うのだ。
しかし地獄狼は、一行の動きがスパイダーに筒抜けになっていたことより、バラの本来の任務がそれだけではないことを見抜いていた…

互いに魅かれあっていることに気付きながら別れた二人であるが、再び現れた八ツ目にハイエナは殺されバラは拉致される。それをドス竜から知らされ助けに行かないと言い張る地獄狼に対し、ドス竜の言葉が突き刺さる。
「あにきは目だけじゃなく頭の中まで片目なんだ、だからよくものが見えないんだろっ」
「俺はバラを助けろとは一言も言ってない筈だぜ」
「俺はあにきが自分を見つけるチャンスが来たことだけを知らせに来たんだ」


「風の柩 完結篇」(連作/地獄狼無頼伝VOL.13 第二部 殺人者の孤独シリーズ第3話 バラの場合)
Op.34、巻末サインは1968年7月14日、16ページ、単行本未収録
劇画コミックサンデー、1968年8月8日号(一水社)

地獄狼はバラを救出するため八ツ目のアジトに乗り込み、暗闇の中での対決に勝つ。
そして、狼、ドス竜、バラの3人はそれぞれの想いを胸に、KISS本部で後始末を着けるべく連れ立って東京へ向う…

誰が敵で誰が味方なのか、二転三転する中で地獄狼(とバラが)自己を模索した「風の柩」完結篇。
「自分を発見していないのは」
「狼であったのか、バラであったのか」
「生きとし生ける者、全てがそうであったのか」

「夜のためいき」(連作/地獄狼無頼伝の姉妹篇の内“天国狼ぶらり伝” 殺人者のもう一つの孤独)
Op.番号なし、4ページ、単行本未収録
劇画コミックサンデー、1968年8月22日号(一水社)

クールで無敵の殺し屋・天国狼、そんな彼が家庭(妻がいる)に帰ると…

いわゆる自作パロディのギャクマンガ、他愛のないオフザケ・コミックです。

「続・夜のためいき」(連作/地獄狼無頼伝VOL.15 地獄狼裁判)
Op.38、巻頭サインは1968年8月11日、4ページ、単行本未収録
劇画コミックサンデー、1968年9月5日号(一水社)

前作「夜のためいき」と同じ4ページながら、うってかわってシリアスな雰囲気、観念的な言葉が続く…
「被告、地獄狼」
「君はなぜあの時、むこうへ行ってしまったのか」
「君は気がついていたのか、いないのか」

地獄狼に問う、という形で作者が自らに問い、読者に問い、同時に自作を語っているようにも読める作品です。

「石の柩 第一回」(連作/地獄狼無頼伝VOL.15 第二部 殺人者の孤独シリーズ第4話 新宿ゲルマンの場合)
Op.番号なし、巻末サインは8月26日、24ページ、巻頭から16ページ2色カラー、単行本未収録
劇画コミックサンデー、1968年9月19日号(一水社)

1968年、夏の終り、新宿。
地獄狼は、新宿ゲルマンという殺し屋からの「新宿で一夜を明かせ」「その一夜が、俺とあんたの勝負の時間だ」という不思議な文面の果たし状を受け、ドス竜の「(東京には)あんたの敵がうじゃうじゃ居る」という制止を振り切り、東京に帰って来た。

久し振りの新宿はすっかり様変わりし、昼夜を問わず場所を問わず、何を考えているのか訳のわからない若者たちがたむろしていた。偶然入った喫茶店で、そんな刹那的にあてなく生きているように見える若者の一人である若い女(名前は出てこない)が、何が気に入ったのか地獄狼について来る。

やがてドス竜も合流(狼が心配で追って来たらしい)、今の新宿の有り様(=若者たちの無軌道さや無味乾燥的な雰囲気)が理解できず「わからねえよ」「俺がバカになったのか」とつぶやく地獄狼に対し、ドス竜は「(あんたは)適応性ってやつに少々欠ける」と軽く言い放つ。

巻末に「※本当は、コマによるドキュメンタリーをやりたかったのですが散発でした」という作者の反省の弁が書かれていますが、1968年という「あの時代」の持つ閉塞感や大都会の孤独感が、客観的な情景コマを多用し淡々と、かつ観念的な言葉と沈黙の双方をちりばめて描かれています。


「石の柩 第二回」(連作/地獄狼無頼伝VOL.16 第二部 殺人者の孤独シリーズ第4話 新宿ゲルマンの場合)
Op.番号なし、巻末サインは1968年9月16日、24ページ、巻頭から8ページ2色カラー、単行本未収録
劇画コミックサンデー、1968年10月3日号(一水社)

地獄狼は、(前回の喫茶店から)自分に付いて来る女と連れ込み宿で一夜を共にするが、新宿ゲルマンの果たし状の文面「新宿の一夜が、俺とあんたの勝負の時間だ」が気になり神経が休まらず、ちょっとした物音にも過敏に反応してしまう。外では工事現場の杭打ちハンマーの音がいつまでも断続的に鳴り響いている。

別行動のドス竜は酒を飲むためにスナックBAR「ばら」に入るが、偶然にもそこのママはなんとバラ(「風の柩」で登場)だった。そのスナックには人相の良くない男と彼を尾行している刑事二人も偶然居合わせ、しかも刑事の方は地獄狼とドス竜のことも知っているらしい。

悶々とした一夜が明け、結局、新宿ゲルマンとの対決も何も起こらなかった地獄狼は、何か食べたいと言う女を連れて関係者が一堂に会している(とは知らずに)スナックBAR「ばら」に入り、バラと思いがけない再会を果たす…

殺し合いをすることなく新宿ゲルマンが去った後、最後に地獄狼が言う台詞
「あいつにも、この町にも」「完全に負けだ」
彼は一体何に負けたのか。
作者はなぜ、ここで狼の負けを描かなければならなかったのか。

前後編併せ、これまでの地獄狼シリーズとは(「こぼれ陽」と共に)雰囲気の異なる(やがて「はみだし野郎シリーズ」以降に花開く)「閉塞状況下での同時代的作品」の先駆とも言えるでしょうか。


「波の柩」(連作/地獄狼無頼伝Vol.17 第3部 殺人者たち)
Op.番号なし、巻末サインは1968年10月22日、24ページ、単行本未収録
劇画コミックSunday 1968年11月14日号(一水社)
扉から8ページ2色カラー

地獄狼とドス竜は旅先で一匹狼の殺し屋と出会う。

殺す相手を出身地で決め、殺す時に「天誅!」と叫ぶ、日本刀の達人であるその男の正体と目的は一体何なのか…

 

「夜の遠吠え」(連作/地獄狼無頼伝VOL.18 第三部 リンネの旅路)
Op.44、巻末サインは1968年12月14日、24ページ、巻頭から8ページ2色カラー、単行本未収録
劇画コミックサンデー、1969年1月9日号(一水社)

雪降る中、夜道を往く地獄狼は、人里離れた地にようやく一軒の大きな屋敷を見つけ「雪と寒さで難儀しているため」一晩の宿を願い出る。応対に出た若い女性は地獄狼を快く招き入れるが、その夜、闇夜に響くかすかな悲鳴を伴い女が一人死ぬ。

翌朝、地獄狼は、同じ道を先に往っていたドス竜もこの屋敷に泊まっていたこと、屋敷には厳格そうな主(あるじ)とその娘、ハル・ナツ・アキ・フユの四姉妹(全く同じ顔)が住んでいることを知り、そして朝になってハルが外で雪に埋もれて死んでおり、事故か他殺かはともかく屋敷の窓から転落したらしいことを聞かされる。

「すぐに警察に届けなければ」と慌てるドス竜に対し、家人たちは「この家での出来事はこの家で決着をつけるしきたりだから警察に届ける必要はない」と取り合わず平然としている。
ハルが妊娠していたこと、雪の上に外部から出入した者の足跡がないことから、ハルが(事故死でなく)殺されその犯人がまだ屋敷内にいる(=6人のうちの誰かが犯人)と判断した主は「犯人が判るまで全員屋敷を出ないように」と命令し地獄狼たちも従うことになる。
そしてその夜(実は大晦日)、悲鳴とともにナツが氷柱に体を貫かれ殺される。

年が明け犯人が判らぬまま足止めを食う二人。ドス竜が「お通夜もやらないし、第一(残された三人が)ちっとも悲しそうじゃないね」と言うと、娘(アキかフユかは不明)は「仕方ありませんわ」「いつかはこうなる運命だったんですもの」と意味深な言葉を残す…

途中まで「環妖の系譜」に連なる怪奇作品群の先駆かなと思わせる雰囲気ですが、実は父親と四人姉妹の閉鎖的で歪んだ愛の世界が、部外者が現れたことによりバランスが崩れ自壊するという話で、吸血鬼やもののけの類は出て来ません。とは言え地獄狼が(他の作品のように自身の存在を問うことなく、仕事として殺しをすることもなく)完全に蚊帳の外であり、シリーズ中で異色の存在であることは事実と言えましょう

「寒雷の狼葬」(連作/地獄狼無頼伝VOL.19)
Op.47、巻末サインは1969年1月5日、24ページ、巻頭から8ページ2色カラー、単行本未収録
劇画コミックサンデー、1969年2月6日号(一水社)

雪深い田舎の合掌作りのような大きな家の広間、(知り合いではなくたまたま宿を借りている)地獄狼とドス竜が、家の主(狼よりずっと年配だが老いぼれてまではいない)と囲炉裏を囲んでいる。そこに娘のウメが出てきて食事を薦めるが、二人は彼女がバラ(「風の柩」に登場、その後再会するも別れ?狼は彼女を探す旅をしていた)にそっくりなのに驚く。
遠くで寒雷(冬の雷)が不気味に鳴っている。

やがて地獄狼とドス竜は別々の部屋に案内され床につくが、夜も更けた頃、地獄狼の布団にウメが入ってくる。真意を計りかね訝る狼に対し、彼女は「あなたは、私の知ってた人にそっくりです」と言って短刀を抜き、同時に主(あるじ)が鎌を武器に、地獄狼を挟み討つ。命を狙われる心当たりがない狼に対し、主は「訳は、おめえの顔に聞くさっ」と言い放つ。

翌朝、家の中が荒れ血の跡もあるのを見たドス竜は、家の隅で座ったまま胸に短刀が突き刺さっている地獄狼の死体を見つけ愕然とする、が、それは狼ではなく良く似た顔の殺し屋だった。

実は主は昔名を馳せた殺し屋で、平穏な暮らしを望みもう何十年も隠居生活をしていたが、二日前に地獄狼に良く似た追っ手が現れたことにより殺し屋の本能が呼び覚まされ、そんな(永い山里暮らしで得た安息の日々が一瞬にして吹っ飛んだ)自分の性(さが)に絶望に近い感情を抱いていた。
主は地獄狼とドス竜に向って言う「(自分の性が)悲しいが(お前たちを)殺る」

年老いた殺し屋に自分の未来を見る地獄狼。
自分はここで(主に討たれて)死ぬべきか、それとも生き延びるに足る理由はあるのかと自問する地獄狼。

「殺されたのは、本当に、俺によく似た男だったのか、俺自身ではなかったろうか」
「俺が殺したのは本当に、バラによく似た女だったのか、俺の中にある、バラ自身ではなかったろうか」


「地獄へいそげ!」(連作/地獄狼無頼伝VOL.20)
Op.52、巻末サインは1969年2月、30ページ、巻頭から8ページ2色カラー、単行本未収録
劇画コミックサンデー、1969年3月20日号(一水社)
PNは「真崎 守」(・なし)

組織の殺し屋(拳銃の名手)が地獄狼の到着をてぐすね引いて待っている地方都市に、狼とドス竜は足を踏み入れた。
駅前商店街を歩く二人は、一刀彫の店の前で足を止めるが、店先で般若の面を彫っていた彫り物師は突然「気に入らん」と言って、ほぼ完成していた面を真っ二つに叩き割る。
ドス竜が「あっ、もったいない、どうしてこわすんです」、地獄狼が「これまでつくるには大変な苦労があったでしょうに」と言うと、彫り物師は「こいつには形を止めておく資格がない」と言い、どんなに苦労をかけてもペケはペケ、所詮は壊される運命にあるのだと言う。それを聞いた地獄狼が「ところでだんなは、つくるためにこわすのか、こわすためにつくるのか」と訊ねると、彫り物師は「(良く判らないが)案外、こわすために作ってるのかな」と答える。
面を買って行かないのかと言う彫り物師に対し、狼は「帰りに寄れたら買うよ」と言い残して去る。
町の雰囲気にただならぬ殺気を感じる二人だが、予想通り、ホテルに着くと間もなく、刺客が部屋を訪ねて来て対決を迫る。地獄狼は刺客との決闘のため外に出て行き、ドス竜は刺客の情婦に拘束される…

ヤングコミック1972年2月9日号に掲載され、青林堂から1973年に出版された単行本「ながれ者の系譜第三部 地獄狼篇」第三話として収められている「殺人巡礼通りゃんせ」の原形と言うべき作品で、先に地獄狼に挑む殺し屋の風貌と武器は異なりますが(ヤングコミック版の方は「風の柩」に出てきた“八ツ目”に顔も武器も似ている)、話全体の流れはほぼ同じ、彫り物師とのやり取りも酷似しています。

サンデーP.M/1967年11月2日号掲載「狼・地獄へいそぐ」から始まった地獄狼シリーズの最後であり、作品末尾に「“狼”が新たなる脱出をするためには、先んじて作者の脱出があるばかりです。何時か再びその日の来る事を信じて、この連作をとりあえず今回にて区切ります」という作者コメントが書かれています。


「夏弔(なつのとむらい)」
小池一夫原作
巻末サインは1979年6月、50ページ、単行本未収録
ビッグゴールド 1979年夏の号(7月20日号)(小学館)
扉から4ページ2色カラー
この時期の作品では珍しく、PNは真崎・守(・あり)

毎朝新聞学芸部記者・木村は、天涯孤独で無名の老詩人・荷田雨彦が医者にもかからず薬も飲まず、まるで自ら選んで病死したとの報を受けてとりあえず取材に行くが、弔問にモンペ姿の老婦人、実は石橋財閥の当主が訪れ遺書を受け取ったのを見て追いかける。

木村が故人との関係を話してくれなければ徹底的に取材すると言うと、彼女は34年前のことを語り始める。
終戦直後、彼女が石橋家に入る前の貧しかった頃、二人は食料買出しで3度だけ出会い、その後再び会うことはなかった…

小池一夫原作にしては喋りすぎず、理に陥らず、静けさの中に余韻の残る作品。


「エデンの東」
Op.番号なし、18ページ、単行本未収録
平凡 1970年11月号(平凡出版)

E.カザン監督、J.ディーン主演映画「エデンの東」のマンガ化。

真崎守カラーを全く出さずに映画の忠実な再現のみに注力したようで、全編のストーリィをほぼそのまま網羅しています(母親とのエピソードはほとんどカットされていますが)。

しかしながら2時間の映画を18ページに凝縮したため、主人公の苦悩やヒロインの心境の変化、父親の性格描写が不十分であり、あらすじ紹介の域を脱していないのが惜しまれます。


「昇陽」(太宰治「駆け込み訴え」より)

10ページ、単行本未収録

高3コース、19744月号(学習研究社)

 

「申し上げます」「あの人はひどい」「いやな奴です悪いんです」「生かしておけねえ」

 

ローマの役人のもとへ駆け込んできた男、イスカリオテのユダはそう語りだした。

彼は自分の師イエスについて、その美しさを称え愛を語ると同時に、自分の献身に報いてくれないことへの憎悪を口にする…

 

「あんな美しい人はこの世にいない/それだけだ」「あの人は/私のこの無報酬の/純粋の愛情をどうして受け取ってくださらぬのか」

 

太宰治が1940年に発表した、ユダが一人語りでイエスへの愛と憎悪と裏切りを語るユニークな短編小説「駈込み訴え」のまんが化で、10ページという短さゆえか一部割愛が見られるものの、概ね原作に沿った構成になっています。

巻頭に「日本文学名作劇画」と冠されていることからも、あくまでも古典名作の紹介を目的とした企画だったのでしょうか。(これは私の勝手な推測ですが)描き手のアレンジを極力排し客観的描写に終始してかつ情報量(文字数)が原作より減った結果、作品の焦点がわかりづらくなった感があります。

太宰の原作を基に作画者の裁量と美意識で自由に描くというコンセプトなら、原作のごく一部分だけを切取り、もっと大胆な魂のドラマが見れたのではとも思えます(それでは企画の意図に反するのかもしれませんが)


「血の伝説」
Op.番号なし、A5版19ページ×7回 単行本未収録
中二時代1970年9月号~1971年3月号(旺文社)

ある村で郵便局員が喉をかき切られて殺され、吸血鬼ではないかと噂される少女・ちどりが疑われる。
主人公ジロはちどりに抗い難い魅力を感じる一方、彼女が潔白であるとの確信を持てずにいる。ちどりの抹殺を主張する猟師・甚兵衛に加えて吸血鬼伝説を説く民俗研究家も現われ、ちどりへの疑いは深まっていくが…

ジロとサヨという「ジロがゆく」そのままのキャラが主要人物として登場します(しかも全く同じ時期の別冊少年マガジン1970年8月号~1971年3月号に「ジロがゆく」が連載中)が、ブロンズ社選集「ジロがゆく」第3巻の作者あとがきで触れられている「ジロがゆく」シリーズにはこの作品の名前はありませんので、作者自身は「これは、青春ものの「ジロがゆく」シリーズではなく、登場人物を借りただけの別路線作品」と位置付けているのかもしれません。


「雪の満月」
Op.123、巻末サインは1970年11月、32ページ、単行本未収録
希望の友 1971年1月号(潮出版社)

病気の母親の静養のため田舎に住む一家。
しかし母親は治る兆しを見せず少年(息子)の心も重く沈みがち、折しも友達の牧場では病気の馬が(生かしておいても苦しむが長引くだけなので)いつ殺されるかという局面を向かえていた。

そんなある日、少年は母親の発作を目の当たりにし、その後、父親と医者の会話を盗み聞きして、母がもう余命いくばくもないことを知る。
直後に友達の馬が銃殺され、少年の心にはある決意が芽生える…

「どしゃぶり」
Op.107、巻末サインは1970年8月、34ページ、単行本未収録
週刊少年チャンピオン 1970年9月7日号(秋田書店)
扉のみフルカラー

交通事故で右足を失い結婚も破談になった姉。
責任を感じて尽くしてくれる加害者の青年と互いに惹かれあうようになるにつれ、姉思い(実はシスコン)の弟は心穏やかでなくなって行く。
そんな時、青年は彼女にプロポーズするが…

子守唄シリーズにこんな話があっても全く違和感のない作品です。 

「死乃美修羅」(連作/血の饗宴/VOL.1)
Op番号なし、30ページ、単行本未収録
月刊タッチ 1971年9月創刊号(タッチ社)

舞台は江戸時代の江戸、蘭学者・平賀源内の知り合いで岡っ引きの娘(と思われる)お萬は、ある夜無人の馬車が棺桶を乗せて走っているのを目撃する。馬車は佐渡守の屋敷門前に着き、これも平賀源内の知り合いだが死んだはずの吉良重吉を乗せて去った。

翌日、お萬が源内にその話をしているところに、下っ引き(と思われる)のチョンボ(という名前)が「昨夜、佐渡守が殺された」との報せを持って飛び込んで来る。
源内は老中・田沼意次に会い(源内は田沼の意向で顔パスが効き、情報収集や怪事件の解決に当たれるという設定らしい)、公儀隠密お庭番だった吉良が佐渡守の一人娘・お紅と恋に落ち、そのため佐渡守に騙され、仕事(暗殺)の褒美の代りに鉄砲で蜂の巣になり死んだことを知る。憤死の吉良が幽鬼になって出たとは合点がいかぬと言う田沼に対し、源内は吉良本人が犯人と確信する。

そして(やはりと言うべきか)吉良の墓からは死体が消えていた。源内はお萬やチョンボと共に深夜の墓地を見張るが、思った通り吉良とお紅が逢引きに現れた…

いわゆる「吸血鬼もの」、真崎守の作品体系の中で一つのカテゴリーを成している「怪奇・妖怪路線」の作品と言えましょう。
後に「血の饗宴」という同名異作品が別の雑誌に発表され、ブロンズ社選集第13巻「環妖の系譜」に収録されておりますが、同巻の作者あとがきにそのいきさつが書かれています。


「波乱伴天連」(連作/血の饗宴 第二話)
Op.147、巻末サインは1971年8月、25ページ、単行本未収録
月刊タッチ 1971年10月号(タッチ社)

時は明和八年(1771年)、キリシタンの女が拷問を受けながら踏み絵を迫られている。
女はいっそ殺してくれと願うが、あくまでも生きて改宗させることが目的の役人達?は拷問を続け、ついに踏み絵を踏んだ女は終生の追放刑を受け釈放される。

女は改宗してしまった自責の念から堀に身を投げるが、たまたま通りかかった宗十郎頭巾の侍に助けられる。しかし女がどこかの部屋で目を覚ました時には何故か頭巾の男は姿を消しており、彼女は再びあてもなく彷徨い歩いた末、腑解け(死体解剖)について議論している平賀源内と杉田玄白(実際は玄白が一方的に、乗り気でない源内を誘っているだけ)と擦れ違ったところで倒れてしまう。
二人(源内と玄白)は女を源内の長屋に連れて行き介抱するが、拷問の跡から彼女がキリシタンではないかと疑うとともに、首筋に二つの赤い斑点を発見する。

源内は何かが気になってキリシタンについて色々と調べた結果、老中・田沼意次の屋敷に行き「バテレンは古来からライバル関係にある吸血鬼を追い撲滅するために日本に来たが、キリシタン禁止令のためドラキュラ一族だけが野放しになっている」「日本は今やドラキュラ天国だ」と説く…


「吸血城異聞」(連作/血の饗宴 第三話)第一章
Op.番号なし、24ページ、単行本未収録
月刊タッチ 1971年11月号(タッチ社)
「吸血城異聞」(連作/血の饗宴 第三話)第二章
Op.番号なし、巻末サインは1971年10月、21ページ、単行本未収録
月刊タッチ 1971年12月号(タッチ社)

日本のどこかにいるはずの吸血鬼たちは何をしているのか、前回「波乱伴天連」で墓地の中から姿を消した二人(宗十郎頭巾の侍と女)はどこへ行ったのか、どうしても突き止めずにはいられない平賀源内は、田沼意次の許可を得て(資金百両も貰って)調査のため弟子の鈍行(という名前らしい)を伴い長崎に向かう。

同じ頃、宗十郎頭巾の侍と女(今回、深雪という名前であることが判明)は、山奥にある吸血鬼の城に辿り付く。吸血鬼たちは(自分たちの存在を信じているらしい)源内の鬼才を利用するため、血を吸って仲間に入れるべきではないかとの考えに至る。

時に幕府は農民たちの一揆・強訴を取り締まるため、告訴人には銀百枚の懸賞金や苗字帯刀を許す(=武士になれる)との待遇で密告を奨励していた。しかし百姓が武士になっても任官できるわけがないので意味はなく、結局は裏切り者として白眼視され哀れな末路が待っているだけであった。

そんな密告者を、源内の眼前で虚無僧のような男が(わざと因縁をつけ)斬って捨てる。なぜ殺したという源内に対し、男は「死にたがっていた奴に手を貸したまでだ」と言い、(密告を責められて)とうに気がふれている密告者の妻子を指し「源内、おぬし救えるか?」と問う。
実は男は吸血城に住む吸血鬼の一人であり、転生(血を吸って吸血鬼にする)によって母子を救おうとするが源内に阻まれる。しかし人間として二人を救えない源内は結果として母子を死なせることになる。

やがて源内と鈍行の行く道はことごとく分岐の一方が通行止めになり、それを避けつつ進む二人は山道に入って行き、予感の通り吸血城に辿り付く。
鬼が出るか蛇が出るかと構える二人に対し、出てきたのは御馳走と美女によるもてなしだったが…

吸血族は遠い昔から日本におり、我々普通の人間(の一部)にもその血が混じっているのだ、ということを匂わせることにより、日常と非日常が背中合わせであることを暗示する一面もある作品です。

吸血城の主は源内に向かってこう言い放つ
「なぜ、自分が吸血の一族じゃないと信じているんだね」


「歪曲線」
Op.125、巻末サインは1970年11月、22ページ、単行本未収録
ビッグコミック 1971年2月1日増刊号異常ミステリー特集(小学館)

高校生(?)伸二は同級生しのぶに再三ちょっかいを出すが相手にされない。
彼の家には二人が通う学校の女教師・東が下宿しており、ある日伸二は東を呼び出し強引に関係を持つ。


東との関係を続けることにより伸二はしのぶの方を見なくなるが、実は伸二に想いを寄せているしのぶの心中は穏やかではなく… 

思春期の鬱屈と刹那的な男女関係、22枚の短い頁数に、三者の視点と立場の変化を上手く織り込んでいます。


「陽炎のように燃えた… せくしょんONE 昨日のかけら(1)」(連作/こみっきすと列伝/VOL.1)
Op.70-1、巻末サインは1969年9月、16ページ、単行本未収録 

→ 「COM傑作選 上 1967~1969」(2015年4月10日発行、筑摩書房ちくま文庫)に収録
COM 1969年10月号(虫プロ商事)

人間が炎を使うようになった原始時代、火番の若者は誤って火(作中では「赤い舌」と呼ばれている)を消してしまい、本来なら仲間に殺されても仕方のないところを、約束の時刻までに部落に帰れなければ恋人サチが頭のものになるという条件で火の山まで赤い舌を取りに走ることになった。


彼はひたすら走るが、次第に恋人への疑念が頭をよぎるようになる…

 

「陽炎のように燃えた… せくしょんEND 明日のかけら(1)」(連作/こみっきすと列伝/VOL.3)
Op.71-3、巻末サインは1969年11月、17ページ、単行本未収録

→ 「COM傑作選 上 1967~1969」(2015年4月10日発行、筑摩書房ちくま文庫)に収録
COM 1969年12月号(虫プロ商事)

「陽炎のように燃えた…」3部作の完結篇。
第一話が過去、第二話が現在、そして第三話は未来。
共通するのは「こみっきすと」=絵描き人と「燃えるもの」=炎、兵器、核爆弾。
滅びてしまった人類=こみっきすと達へのノスタルジィ。

「あれは、陽炎か…」

 

「風の中から せくしょん1 昨日のかけら(2)」(連作/こみっきすと列伝/VOL.4)
Op.79-1、巻末サインは1969年12月、32ページ、単行本未収録
COM 1970年1月号(虫プロ商事)

今回の「こみっきすと」は江戸時代の絵師。
不作で米不足の年の瀬、米問屋の加島屋に押し込み強盗が入り店主が刺殺された。
貧乏絵師の弟子ゴローは、下っ引の弥八に頼まれ手配書の人相描きを試みるが、目撃者四人(加島屋の奉公人)の証言がばらばらに食い違うため絵にならない。
やがて下手人の残した凶器のドスから身元が割れ、捕縛のために旅立つ弥八にゴローは強引に同行を志願する。
実は弥八もゴローも気付いていた、目撃者が皆、悪徳米商人など死んで当然と思い、下手人をかばって嘘の証言をしていたことを。

「そういう男の顔…/一度描いてみたかったんだ」


「風の中から せくしょん2 昨日のかけら(2)」(連作/こみっきすと列伝/VOL.5)
Op.79-2、巻末サインは1970年1月、16ページ、単行本未収録
COM 1970年2月号(虫プロ商事)

貧乏絵師の弟子ゴローは、たまたま強盗刺殺現場に居合わせ犯人(ネズミ小僧と呼ばれる義賊らしい)の素顔を見たため、弥八から人相描きを強要される。
前回の一件以来、どうしても人相描きは嫌だと言うゴローだが、弥八の懇願に折れて引き受けることになる。
彼はやむなく、でたらめの人相描きを描くが…

ただ絵を描くだけなのに、何故いつも結果は自分を裏切るのか、絵師の本懐とは何なのか、という問い掛けが「風の中から」共通のテーマに思えます。


「風の中から せくしょん3 昨日のかけら(2)」(連作/こみっきすと列伝/VOL.6)
Op.79-3、巻末サインは1970年2月、16ページ、単行本未収録
COM 1970年3月号(虫プロ商事)

絵師の卵ゴローを主人公とするシリーズの最終話(「COM」次4月号に「風の中から せくしょん4」が載っていますが、これは真崎守自身のエッセイコミック)。

絵師に対する弾圧が高まり、ゴローの師匠もその災を受けて投獄される。
師匠がいなくなったゴローは、さまざまな想いを吹っ切るために旅立ちを決意するが…

台詞のほとんどないページが全体の半分以上を占めており「語らずに語る」真崎守作品の真骨頂と言えましょう


「風の中から せくしょん4 今日のかけら(1)」(連作/こみっきすと列伝/VOL.7)
Op.79-4、巻末サインは1970年3月、16ページ、単行本未収録
COM 1970年4月号(虫プロ商事)

真崎守自身の近況と言うか心境を綴ったエッセイコミック。
自分が20代最後を迎えているとか、子どもの頃疎開した話とか、現在や過去の話を訥訥と語っていますが、メインはアシスタント募集の顛末。

「COM」の2月号にアシスタント募集の広告を出したら、電話、直接訪問、葉書類等、計二百件以上も集まった問合せへの対応に追われる羽目になり、それも本当に様々な人(なかには変わり者や失礼な者も少なからずいたような)がいて(それはそれで煩わしい中にもちょっと面白かったような感じにも読めますが)、結局アシスタントは公募とは別に(?)キシもとのりに決まり、本作品上でまとめて(不採用者への)返事を書いた形になっています。

問われるのは、作者(真崎守)、読者(アシスタント志望者)、マンガ作品のキャラクター、全ての存在の「意思」


「檻の中の叙事詩」(連作/こみっきすと列伝/最終回)
Op.93、巻末サインは1970年4月、24ページ、単行本未収録
COM 1970年5・6月合併号(虫プロ商事)

前半13ページ目までは書き文字による文章中心(ページ面積のほぼ半分が文章でその間にコマや絵が点在しています)。
書かれているのは…作者自身のマンガとの関わり、最初の少年マンガ「ジロがゆく」のこと、最初の連載マンガ「ナガレ」のこと、作者自身のルーツ(家系)のこと、等々、マンガに拘泥する日常を交えながら、前号に掲載された「風の中から/第四話」同様、終着点のない空間を彷徨う散文のような取り留めのなさと(書き文字の)読み難さが特徴的です。

後半11ページは形式上は「普通のマンガ」で、最初の2ページは作者自身が自問自答しながら街を歩き、次の2ページは(「風の中から」の)ゴローと弥八の旅立ち、次は「陽炎のように燃えた…」の登場人物たちが次々と現われ…とシーンが移りながらどんどん文字(台詞)が少なくなって行き、最後は再び作者自身に戻って来る、ある種、実験的というか心象風景的な構成となっています。

「檻の中」の「檻」とは、マンガのコマという意味でしょうか(私にはそう思えました)。


「東京魔女伝説」
草川隆原作
巻末サインは1974年4月、24ページ、単行本未収録
ビッグコミック 1974年6月25日号(小学館)

大手商社ビッグ商事に務めるOL・玲子は、ある日会社の受付嬢(と言っても定年間際の婆さんで独身)から社章が歪んでついていると小言を言われるが、結婚を約束している恋人で同じ会社のエリート社員・岩井が割って入る。

その夜同僚の酒に付き合った彼女は、受付の婆さんが実は社長の元恋人で、現社長が先代社長に見込まれ娘婿に入った時に捨てられ、裏切られた復讐のため(毎日いやでも顔を合わせる)受付嬢として居座っていることを聞かされる。

同じ夜、都内某所の料亭(?)で、岩井は現社長から一人娘と結婚しゆくゆくは会社を継ぐよう要請されていた…

婆さんが受付に居座り続けた理由は(噂通りの)復讐だったのか、それともこれも一つの愛の形だったのか…


「THIS OVER SPLIT YOKE 絆 ―きずな―」
Op.42、巻末サインは1968年12月10日、24ページ、単行本未収録
劇画ヤング 1969年1月22日号(明文社)
扉から4ページ2色カラー
ペンネームは真崎 守(・なし)

インディアンと白人の混血青年・トマホークは、行きずりのチンピラに金を払って町外れの牧場主(名前は出てこない)の娘・ジェニーを襲わせ、それを助けることで父娘双方に気に入られて牧場に住み込みで働くことになる。
牧場では1ヶ月前、父娘の留守中に火事があり、牧場主の妻(ジェニーの母)が焼死体で発見されたが、実はトマホークが犯人であった。
また、トマホークを怪しいと思う保安官は、牧場主が大のインディアン嫌いなのに彼を雇ったことをいぶかる。

そんな折、トマホークが密かに(牧場から)出て行こうとしたため、彼に好意を抱いているジェニーは止めようとするが…


「悲傷」
PNは「もり・まさき」
Op.7(巻末サインは1965年5月)、18ページ、単行本未収録
貸本「刑事」(東京トップ社)No.44(1965年6月25日発行) 

1965年夏、主人公・牧伸(絵では少年のような風貌にも見えるが、父親が20年前に戦死していることから20代前半と思われる)は母と共に亡き父の墓参りに来ていた。

そこにやはり毎年(牧の父の命日に)墓参に来る永瀬(父の戦友)がまだ幼い娘を連れて現れた。
伸は、永瀬(今は妻を亡くし独身)がかつて伸の母のことを好きであったことを知っており、二人に「お似合いだから再婚すれば良いのに」と言う。しかし二人は口を重く閉ざし伸の提案に応じようとはしない。

実は、永瀬と伸の父の間には辛い過去があり、母もそれを知り苦しんでいたのだった…


「富士幻視行」(連作/眠らない子供たち)
50ページ、単行本未収録
COMICムー(ムー別冊)VOL.1 1986年12月5日発行(学習研究社)

扉に「新手法(A NEW STYLE VISION SYSTEM)」と銘打ってありますが、マンガと言うより挿絵の多い文章といった趣で、最初の17ページは1ページ当り0.5~3枚(コマ)の絵で紙面が全て埋められているものの、後半は文字の占有面積が多くなり、図表まで登場、とにかく膨大な言語量です。

太古の富士山が爆発し、海を造り、その海から生命が生まれ、その生命の一つがリュウ(龍)になり、リュウが去った後にユーラシア大陸から日本が分離され、そして人類の歴史が始まり…

古代史を紐解きながら、日本人のルーツとは何か、あるいは日本人はこれからどこに向かうのかを問うた作品…のようにも見えながら、最後は、人間とはまだまだ謎の多い、何と不思議な存在なのか、大脳の92%は一生眠ったままと言われているがそこには「眠らない子供たち」が潜んでいて私たちがその声に気付くのを待っているのだと結んでいます。


「風に叛く日」
Op番号なし、24ページ、単行本未収録
女性コミックELLE 1969年8月号(芸文社)

主人公・詩子(年齢は20代と思われる)は、タクシーに乗っている時に交通事故に遭い負傷し、同乗していたたった一人の肉親である母を失う。
加害者の会社社長・上原は入院中の詩子に色々と尽くすが、詩子は母を死なせた上原の善意を素直に受け入れることが出来ず、そんな自分に自己嫌悪を感じる。
また、詩子は恋人でトラックの運転手・良とも以前と同じようには接せなくなり、良に「前のきみとはまるで違ってしまった」と言われる。

一向に快方に「向かおうとしない」後ろ向きな詩子に対し、上原は業を煮やして「なぜそうやってひねくれようとするのだ」「きみは自分の悲劇に甘えようとしているのに気づかないのか」と言うが、詩子は「あなたには被害者の気持ちは判らない」と反発する。だがその直後、詩子は上原が義足であることに気付き、彼も何年か前に交通事故に遭い妻子と片足を失った被害者であることを知る。
やがて詩子は、彼女と上原の接近を懸念する良の反対を押し切り、療養のために上原の別荘に赴き、快方に向かうが…

設定等「どしゃぶり」(週刊少年チャンピオン 1970年9月7日号掲載、単行本未収録)と似た感じの話ではありますが、掲載誌の性格上から「女性読者向け悲恋コミック」として描かれており、ストーリィ進行は主人公・詩子の回想という形になっています。


「ながれ狼」
Op.21、巻末サインは1968年3月、20ページ、巻頭から4ページ2色カラー、単行本未収録
劇画コミックSunday、1968年4月25日号(一水社)

幕末の京都、とある宿屋で長州藩士数名と会合を持った五人の浪士が、議論の末に刀を抜き(もともとは同志となるべく誘った)長州藩士たちを斬って逃走した。
夜道を急ぐ五人の前に現れたのは殺し屋(作品ではあえて「屠殺屋」と呼んでいる)のナガレ狼とマシラの銀次。

浪士のうち二人がナガレと正対して先に三人を逃がすが、ナガレはマシラに三人を追わせ、残った二人に対して「誰も知らなかったはずの今夜の会合をオレは知っている。何故バレたのか判るか」とだけ言いあえて勝負しない(去る二人を追わない)。
その後、ナガレはマシラの追った三人に追いつき、一人づつ斬ってゆく…
一方、ナガレが逃がした方の二人は「会合が何故バレたのか」という言葉が気になり互いに疑心暗鬼になる…

ストーリィの構成は(真崎守作品としては)シンプルですが、作画面では、チャンバラ場面にかなりの枚数を割くと共に、表現自体もコマ送り(ストップモーション)を多用し実験的と言えます。


「残火寂寞」(連作/せくさんぶる第11話<匿名女性(年令不詳)の体験>)
12ページ、単行本未収録 
週刊プレイボーイ 1974年10月1日号(集英社) 

読者の性体験実話投稿をまんが化するシリーズ「連作/せくさんぶる」第11話。 

初体験の相手と別れた後も、毎年必ず、その日(初体験の日)その場所(初体験のホテル)で彼と一夜を共にする女。 
彼女は自ら好んで過去に縛られ、彼はそんな彼女を受け入れ続けてきたが、彼女を思い別れを告げる。 

「自分を縛るもの全部を/自分で解いてみせるしか/方法はないのに」「あなたは甘えんぼだから/いつも自分以外のだれかに/解いて貰おうとする」

ちなみに、このシリーズ(1974年7月16日号~1975年2月25日号)に先立ち、1973年6月5日号~1974年1月15・22日合併号に渡り、「せくさんぶる」という作品の第一部「ユニコンの伝説」と第二部「キバ錆びるまで」が同誌に掲載され(これは後日、ブロンズ社選集刊行に際し、内容の修正変更及び再構成が施され「花と修羅」という作品に変貌しました)、それと区別する意味を含めてか雑誌目次には「新せくさんぶる」と記してあります(作品扉タイトルはあくまでも「連作/せくさんぶる」)


「星のゆれる日」(連作/せくさんぶる第12話<船川恵子(仮名)21才(O・L)の体験>)
12ページ、単行本未収録
週刊プレイボーイ 1974年10月8日号(集英社)

読者の性体験実話投稿をまんが化するシリーズ「連作/せくさんぶる」第12話。
登場人物は3人、二枚目の若い男、サングラスを掛けた年配男、船川恵子(仮名)の順に登場。

秋風を感じながら、自然豊な小径を行く若い男、彼は眼を閉じたまま、風や音を感じながら歩いているらしい。
彼は、前から来た年配男に対し、眼を閉じたままジェスチャーで道を尋ねる。
年配男は、若い男が眼も口も不自由だと思い込んだまま、自分の来た道(若い男が行くであろう道)について、道なりに行けば温泉場に着き、途中で右に入ると物見が原に抜けることを教える。
別れ際に若い男が御礼の言葉を発したことから、年配男は自分が先入観に囚われていたことに気付く。

若い男は、道なりにしばらく歩いた後、右の方から「やっほーッ」という声が聞こえたため、そこが(年配男の言った)物見が原だろうと思い行ってみることにした。そこで声の主である恵子と出会う。
意気投合した二人はそこで時を過ごす。

「星がきれい」
「ああ」
「今日の星、なんだかゆれてるみたい…」
「ほんとだ…」「星がこんな動き方したかなあ」
「なんだか見なれない星が動いていく…」
「ほんとだ…」

やがて二人は、星空の下でごく自然に関係を結ぶ…

動いていく見慣れない星=UFO?を匂わせ、一夜の不思議体験物語的でもありますが、飄々かつ自然体の登場人物たちの個性が強く、そちらの方に関心が行ってしまう話です。


「りびんぐ・おん」(連作/せくさんぶる第16話<松田たかし(仮名)会社員(27才)の体験>)
12ページ、単行本未収録
週刊プレイボーイ 1974年11月5日号(集英社)

読者の性体験実話投稿をまんが化するシリーズ「連作/せくさんぶる」第16話。

27歳で婚約した松田たかしは、いつものように満員の通勤電車に揺られていたが、ふと気付くと車内には自分と不思議な老婆だけしかいない。
老婆は、彼が7歳で自分の感情にブレーキをかけてしまったことを言い当て、今こそ自分を解放するよう彼に説く。

「もう大丈夫さ…/ここから始まるものがあることを忘れない限りね」


「絶対地平」(連作/せくさんぶる第17話<鈴木千春(仮名)大学生(20才)の体験>)
12ページ、単行本未収録
週刊プレイボーイ 1974年11月12日号(集英社)

読者の性体験実話投稿をまんが化するシリーズ「連作/せくさんぶる」第17話。

鈴木千春(仮名)という女性への質問と回答という形式の作品。
初体験からエクスタシーだった、世の中には幸運な人もいるものだという話。


「かいくぐる流れ」(連作/せくさんぶる第18話<結城みどり(仮名)18才(高3)の体験>)
12ページ、単行本未収録
週刊プレイボーイ 1974年11月19日号(集英社)

読者の性体験実話投稿をまんが化するシリーズ「連作/せくさんぶる」第18話。

美人で頭の良い姉に対するコンプレックスから、自分を嫌いながら生きてきた23歳の女性が、突然、そんな必要がないことに気付き、彼氏との交際に本気になれなかった理由が相手ではなく自分にあったことに気付く話。

「姉はただの姉だった」「わたしはわたしだった」

ちなみに、この作品の10~11ページ目の見開きが「風の伝説」という作品に転用されています(単行本「風の伝説」の50~51ページ目)


「銀の花」(連作/せくさんぶる第21話)
12ページ、単行本未収録
週刊プレイボーイ 1974年12月10日号(集英社)

読者の性体験実話投稿をまんが化するシリーズ「連作/せくさんぶる」第21話ですが、扉から「初体験ドキュメンティクション劇画」と、<●田▲子(仮名)××才の体験>の表記は消えています。

彼氏ができてラブラブ状態の久子は、今日もデートに出かけて行く。
母親が帰りの時間を聞いても「カレが決めてくれるわ」と判らない。

「心配なんですよ」としきりに言う母親。
「結構なことじゃないか」「わしゃ、楽しみだよ」と娘の交際を喜ぶ祖母。

夜になってもなかなか帰ってこない娘を心配する母親に対し
「久子のことは、久子に心配させろよ」
「自分の子供が信用できなきゃ、親をやめてみれば?」
と父親も意に介していない様子。

母親の繰り言も口癖のような感じで(娘を心配しているのは事実だろうけれど)さほど深刻さを感じさせない。

家族の理解の中、愛を育む恋人たちのお話。

 

「眠りまで」(連作/せくさんぶる第23話)
12ページ、単行本未収録
週刊プレイボーイ 1974年12月24日号(集英社)

読者の性体験実話投稿をまんが化するシリーズ「連作/せくさんぶる」第23話ですが、扉から「初体験ドキュメンティクション劇画」と、<●田▲子(仮名)××才の体験>の表記は消えています。

恋人同士の関係が深まり性に溺れるにつれ、互いの夢を見なくなるという話(あくまでも肯定的な意味で)

「ぼくたち/夢を実現/しちゃったんだナ…」


「俺とおまえの陽炎」(連作/せくさんぶる第24話)
12ページ、単行本未収録
週刊プレイボーイ 1975年1月1日・7日合併号(集英社)

読者の性体験実話投稿をまんが化するシリーズ「連作/せくさんぶる」第24話ですが、扉から「初体験ドキュメンティクション劇画」と、<●田▲子(仮名)××才の体験>の表記は消えています。

ガレキの建物で出会って即初体験の男女、健と和子は二人だけで甘い時間を過ごす。

「オレ達、どこまで行くのかな」
「どこまでだっていいじゃない」
「こんな夕陽をだれかといっしょに見るとは思わなかった」
「みんな同じ夕陽を見るのかしらね」

後半、一人で雪の中を歩く健、彼は和子の写真を雪面に刺し、煙草を卒塔婆代わりに建てる。彼の想いは…

主人公の男女が少年のような似た容貌で服装が全く同じ、他の人間が全く登場しない等から、読者によっては心象風景(健の脳内世界)や近未来SF的なテイストを感じる向きもあるかもしれません。


「除夜」(連作/せくさんぶる第25話)
12ページ、単行本未収録
週刊プレイボーイ 1975年1月14日号(集英社)

読者の性体験実話投稿をまんが化するシリーズ「連作/せくさんぶる」第25話ですが、扉から「初体験ドキュメンティクション劇画」と、<●田▲子(仮名)××才の体験>の表記は消えています。

女は、自分のことを理解してくれない男との愛に疲れ、黙ったままの相手に別れを告げ、部屋を去る。

「いつもあなたは、高みから何かをおっしゃって自己納得なさって」
「際限なく、その場かぎりの方便をくださる」
「わたしにはもう、渡すものも買うものもない」

行くあてもなく彷徨ううちに夜になり、除夜の鐘が聞こえてくる。
たまたま見知らぬ男にバッグを拾われ、しばし会話を交わす。

「あの音でほんとに、夜が除けるものなもかしら」
「人に聞くことじゃ、ないと思います」
「え?」
「鐘に聞くほか、ない」
 
もう(除夜の鐘が)終わったと思い「よいお年を」「ありがとう」と別れた後、最後の鐘音が突き抜ける。

全編の静謐でゆるやかな流れと、最後の鐘音のコントラストが印象的な作品です。


「赤い地平線」(連作/せくさんぶる第26話<藤村良子(仮名)O・L(18才)の体験>)
12ページ、単行本未収録
週刊プレイボーイ 1975年1月21・28日合併号(集英社)

読者の性体験実話投稿をまんが化するシリーズ「連作/せくさんぶる」第26話。

妻子あるイケメン若社長と関係し、その後ささいなことで疎遠になり、自分には他にボーイフレンドもいるけれど、なおも彼のことを想い続けているOLの話。


「鳥道」(連作/せくさんぶる第28話<村田博美(仮名)O・L(21才)の体験>)
12ページ、単行本未収録
週刊プレイボーイ 1975年2月11日号(集英社)

読者の性体験実話投稿をまんが化するシリーズ「連作/せくさんぶる」第28話。

村田博美(仮名)はごく平凡なOLで、喫茶店で声を掛けられた男性(年下、大学二年生)に好意を持ち、彼の真面目さに惹かれて付き合うようになった。
やがてデートの後に彼を自分のアパートに連れて行き初体験(彼も初めてだったらしい)、その後も関係が続き二ヶ月ほど経った頃、彼のアパートに行き「驚かせてやろう」と黙ってドアを開けた彼女は、思いがけない現場に鉢合わせてしまう…

「鳥道」とは空行く鳥の飛ぶ所の呼び名で、作品の始めと終わりを、岸壁のような場所にたたずみ、飛ぶ鳥を目で追う主人公の姿で締めています。

「人もし鳥道を知らんと欲すならば」
「ただ、鳥の姿を追い求めるほかにすべなく」
「…されど」
「鳥道を求むるというは己がありかをたずぬるに、似るばかりなる…」


「予備さん」
小池一夫原作
前後編合せて40ページ、単行本未収録
GORO 1976年6月10日号、6月24日号(小学館)

女子高生強姦殺人事件を追う表刑事は、「予備さん」(店主の予備という意味)と呼ばれている若い新聞配達員に疑いを持ち、彼の当日の行動を洗い始める。
執拗につきまとう表に対し、予備さんは「一度、自分の配達ルートを回ってみてくれ」と順路帳を渡す…

「花と狼」
巻末サインは1974年12月、28ページ、単行本未収録
Mr.Action 1975年1月号(双葉社)

霧で視界が悪い中、グラサン男は歩いていた(船の霧笛が聞こえるのでそこは港らしい)。
男の行手を遮る人影…次の瞬間、彼は3人の暴漢を倒していた。彼に助けられた形になったセーラー服の少女・操は後について船に乗る。
船上で偶然、彼を「あにき」と呼ぶ石松という陽気な男が現われ、特急列車の車内ではこれまた明るいメリーという女が意気投合し四人旅となる。
そして一行は都会から遠く離れ、とある温泉旅館でひと時のくつろぎを得る。湯船に浸かりながらふと見上げると、夜空には申し分のない満月が。

前半10ページはずっと霧の中でまるで心象風景か黄泉の世界、後半は特急列車→清清しい自然→温泉旅館と現実風景に変わりその対比が印象的です。

一見すると主人公はハードボイルド風グラサン男のようですが、その実「自暴自棄になっていたセーラー服少女・操が自分を取り戻す物語」だと言えましょう。


「異聞楊貴妃」
Op.番号なし、巻末サインは1971年12月5日、8ページ×9回、単行本未収録
週刊アサヒ芸能、1971年10月28日号~12月23日号(徳間書店)

玄宗皇帝の皇妃(正室ではない)である武恵妃が、精神を病んだ末に(「我が子・寿王を跡継ぎにするために他の妃が産んだ子を次々に殺した祟りという噂がある」と詩人・李白が作中で語っている)転落死する。悲嘆にくれた玄宗は寿王の館を訪れ、そこでたまたま入浴中だった楊環(後の楊貴妃)を見初める。
一方の寿王は母・武恵妃の死のショックからか夜の営みが駄目になり、そのため楊環は性的な欲求不満を募らせていた。

玄宗は寿王に楊環を譲るよう頼んだが断られ、その落ち込みようを見た別の皇妃・梅妃はある計略を提案、寿王の館を偶然を装い訪ねて一夜を共にする。性的秘技に長けた梅妃により寿王は男性機能を取り戻すが、父の妃に手をつけたことの責任を問われ、楊環を差し出すことになる。

李白の弟子である少年・平楽は、師匠と旅に出ることを断わり、家計のために奉公に出る。彼は男性器を切り落とし、宦官として宮中に上がり、楊環改め太真の世話係(性技を磨くためのトレーナー)となる。
覚悟の上で男を捨てた平楽であったが、太真に出会った彼はそれを悔やむ気持ちを感じていた…


「わかれの季節に」
PNは「もり・まさき」
Op.6(巻頭サインは1964年12月)、37ページ、単行本未収録
貸本「青春」(第一プロダクション)No.11(1965年発行) 

主人公・牧伸吾(高校生か大学生と思われる)は、近所に住む年上の女性・泉なぎさ(社会人)に恋心を抱いている。
とある日曜日の朝、泉なぎさが知らない男と歩いているのを見た伸吾が、昼に城山公園に登ると彼女が待っていた。
今日限りでこの街から居なくなるのでお別れを言うために待っていたと言う彼女に対し、伸吾は
「もしかしたら今朝おねえさんと歩いていた男の人が(結婚相手なの?)」
と尋ねるが、彼女は
「違うわ! お仕事が… お仕事が転勤になったのよ」
と否定した。
彼女の引越し理由が結婚でないと知り安堵した伸吾は、かなわない恋と自覚しつつ彼女に告白し別れた。

その夜、台風接近の中、近所のおばさん(大家さん?)が「なぎささんの部屋に停電用にローソクを持って行ったら居なくて、机の上にこれがあった」と手紙を持って来た。
それは、別れを言い去って行った婚約者(今朝一緒に歩いていた男性)へ宛てた遺書だった…


思春期の青年の純粋さと、一つの恋の終わりを通じての成長を描いた作品ですが、キーワードは「終わり」と「始まり」、ラストは下記モノローグで閉められています。

終り… 
と いう事は 
存在するのか
一つの 
終りの時は
別な一つの
出発のようでは
ないのか…と
考えられは
しないか


「無着成恭の帰郷」原作:岡崎英生
Op番号なし、27ページ、単行本未収録
ヤングコミック 1973年5月9日号(少年画報社)

山形県から上京して働いている主人公・柴田は、新入社員歓迎会の時、同じ山形出身の無着成恭(教育者、僧侶、「こども電話相談室」の回答者として有名)の物真似をしたことから、本名ではなく「ムチャク」と呼ばれている。

吹き溜まりのような彼のアパートには、会話が不自由で筆談しか出来ない杉戸という男(主人公とほぼ同年代と思われる)と、精神を病み毎日部屋で呪詛の儀式をしている上條美登里(主人公の母親くらいの年齢、大柄で容姿は醜い)がいる。
ある夜柴田は、呪詛中の上條美登里の部屋に押し入り肉体関係を結ぶ。まるで何かから逃げるように彼は彼女と夜を重ね、共依存の関係になる。
やがて病院に送られた上條美登里の部屋で、柴田は、彼女が呪詛に用いた紙や木片にびっしり書かれたアパートの住民名の中に、自分の名前があったことに愕然とする…

1970年代初頭の閉塞状況下における、地方出身低賃金労働者の絶望、自分の居場所がどこにもない喪失感を描いた作品と言えますが、原作付きということもあってかやや(真崎守の作品の中では)異質な雰囲気も感じられます。


「理によって流れそうろう」

平見修二原作

16ページ(左開き横書き)、単行本未収録

6年の科学 19724月号(学習研究社)

巻頭のみフルカラー

 

加賀百万石の城下町・金沢はしばしば大火にみまわれた。金沢の地はいにしえより水不足に悩まされており、二代目藩主前田利常は、防火のため、なんとしても城に水を引くよう指示を出す。

誰もが実現困難と思われたこの難題を達成すべく、白羽の矢が当ったのが板屋兵四郎である。

 

兵四郎は周辺の地形を十分に調査し、犀川上流の辰巳から水を引けば、その高低差により高台の地である金沢にも水を引けると判断し、板屋衆と呼ばれる技術集団を率いて工事に着手した。彼の考えは一つ「水は上から下に理によって流れる、水路がいかに曲がりくねろうと勾配さえ守れば良い」

 

この話は、金沢に辰巳用水を造った土木技師・板屋兵四郎の物語ですが、その偉業を称えるだけでなく、兵四郎や作業員たちの名前が歴史に埋もれ消失していることを強調して作品を結ぶあたり、同じ原作者の「日本はみだし人物列伝」の先駆けとも言えましょう。


「華岡青洲の巻」(日本はみ出し人物列伝(1))
平見修二原作
Op.番号なし、17ページ×2回(左開き横書き)、単行本未収録
5年の科学 1972年5月号~6月号(前後編)(学習研究社)

妻と実母が自ら人体実験を申し出る等の献身的な協力(そのために妻は失明した)により麻酔薬を完成させ、西洋医学に40年も先駆けて麻酔手術を成功させた江戸時代の医者・華岡青洲の物語(ちなみに本作品には実母は登場せず、したがって実母が実験台になったことも描かれていません)

この「はみだし人物列伝」シリーズは、社会から認知されない中で努力し偉業を成し遂げた人物を取り上げており、「栄光なき天才たち」(森田信吾作画)の先駆的作品と言えるかもしれません。


「石の狩人」(日本はみだし人物列伝(2))
平見修二原作
Op.番号なし、16ページ×3回(左開き横書き)、単行本未収録
5年の科学 1972年7月号~9月号(前後編&後編その2)(学習研究社)

考古学にとりつかれ、世間や学会の無視や悪口を受ける中ひたすら我が道を貫いた人々の物語。
前編は岩宿遺跡の発掘により旧石器時代の存在を証明した相沢忠洋(1926-1989)の話が中心で、後編は明石人の人骨を発掘した直良信夫(1902-1985)の話。

考古学を目指した多くの者の動機が「科学への探究心ではなく貧しさからの脱却を夢見てのことだった」という記述が、ただの偉人伝と異なると言えましょうか。


「空気をのぼった男」(日本はみだし人物列伝(3))
平見修二原作
Op.番号なし、16+14+8ページ(左開き横書き)、単行本未収録
5年の科学 1972年10月号~12月号(全3回)(学習研究社)

大正~昭和初期の日本航空産業黎明期を支え、晩年には新東京国際空港への用地売却契約第1号となった飛行家・伊藤音次郎(1892-1971)の物語。
明治41年11月、ライト兄弟の映画を見て感動し飛行家を志した伊藤は独学で勉強を始め、日本で初めて飛行機を飛ばした奈良原三次に明治43年に弟子入りした。やがて独立し自分で飛行機を設計製作するようになり、大正5年には民間機として初めての東京訪問飛行に成功して一躍有名人になる。さらには日本人はまだ誰も成功していない宙返り飛行にも挑戦したが…

飛行機開発の先鞭をつけながら、発達し巨大化しすぎた航空機産業に取り残され、古き良き時代の「手作り飛行機」を懐かしむあたりが、「はみだし人物列伝」たる所以と言えましょう。


「ロボット計画Z」
本田重光脚本
32ページ(左開き横書き)、単行本未収録
5年の科学 1971年9月号(学習研究社)

(公害のせいで)灰色の雪が降る東京のクリスマス、毎朝新聞科学部の記者(主人公だが名前は出てこない)は、荷物(クリスマスプレゼント)を沢山抱えた子供とぶつかった。
翌朝出社した彼は、最近世界中で相次いでいる科学者失踪事件がとうとう日本の科学者にも起きたことを知るが、一緒に行方不明になった子供の写真を見て、夕べぶつかった少年だったことに気付く。
行方不明になった科学者達の専門分野が多岐に渡っていることから「彼らはロボットの秘密研究を行っているのでは」との推論を立てた彼は「昨夜、あの子とぶつかったのだから、科学者たちはまだ日本にいるはず」と追跡調査を開始する。

彼の推測通り、科学者たちは「人類の未来のために究極のロボットの可能性を探る」研究を独自に行っていた。彼らは、主人公の新聞記者や各国の秘密警察の追跡をかわしながら日本各地を集団で移動しつつ研究を深めていったが、およそ一年が経過しある結論に達したためか突然自宅に戻り、失踪事件は幕引きとなった。

何もかも元に戻ったと思われたある日、彼は件の科学者たちが相次いで死亡していることを知り、そしてまた、世界で異変が起きているニュースが入る…

「ロボットとは何か」を問うことにより実は「人間とは何か」を浮き彫りにし、科学文明の未来はバラ色ではなく、むしろ人類にとって多くの危険をはらんでいるのだという警鐘を鳴らす作品です。


「アグダの伝説」
14ページ、単行本未収録
5年の科学 1973年9月号(学習研究社)

夏休み特別ページ「なぞにいどんだ人びと」という特集の2<科学劇画>として掲載(1は「生きているのか3億年前のかい魚」というタイトルの、シーラカンスに関する<読み物と図解>)。

1908年6月30日夜明け前、中部シベリアのツングースカ川上空で巨大な閃光が発生、直後に轟音や爆風が走り地面も激しく揺れた。
広範囲に渡り木々がなぎ倒され、森林は炎上したため、その燃え盛る炎を見たツングースの人々は、彼らが古来から信じる火の鳥のような神「アグダ」が現れたと思い怖れおののいた。

その原因不明の大爆発の13年後、ソ連の若い科学者レオニード・クーリックは1921年から1928年の間に3回の現地調査を実施した。
その結果、彼は謎の光(大爆発のこと)の原因は隕石の爆発だと報告、それを受けて1929年に隕石が埋まっていると思われる場所の掘削調査が行われたが彼の説を裏付けるものは何も見つからなかった。
やがて、クーリックの説は誰からも信用されなくなり、彼は第二次世界大戦でドイツの捕虜になり1942年に死んだ。

そして1953年、フロレンスキーという名の地球化学者がかの地を訪れ土を持ち帰り、再調査の扉を開いた…

有名な「ツングースカ大爆発」とその謎を追った人々を描いた科学ドキュメンタリー(ノンフィクション形式であるが原作者等の表記はなし)です。


「寂光院蝉しぐれ」(甦春記・京都大原)
斎藤次郎原作
巻末サインは1972年7月、36ページ、巻頭から4ページ2色カラー、単行本未収録
週刊漫画サンデー増刊号 1972年9月4日号(実業之日本社)

京都大原、三千院宸殿西の間、サングラスの男(名前は出てこない)は、救世観世音菩薩像を座って見ている女(地元京都の女性、名前は出てこない)を見かけた。
夏の陽射しは強く、蝉しぐれが聞こえる中、男はみやげもの屋で先刻の女が鳴子(元は害鳥を追い払うための農機具で、風に吹かれると吊り下げられた拍子木が音を立てる大きな風鈴のようなもの)を買うのを見る。
その後、男は寂光院へと歩いて行き、女も後ろから同じ道を行く。

やがて二人は寂光院で初めて言葉を交わし、行動を共にするようになる。
実は男は妻を亡くしたばかりであり、そのことを聞いた女は「教えてください/奥さまのこと…」「聞かせてもらわんとよう帰れません」と強請する…

互いの中に自分と同じものを見る男女の出逢いが、行きずりでなく前向きに描かれた物語です。


「紫陽花寺・流謫」(甦春記・鎌倉明月院)
斎藤次郎原作
巻末サインは1972年8月、32ページ、単行本未収録
ヤングコミック 1972年9月13日号(少年画報社)

木崎斐沙子は、大手商社の次期重役候補部長夫人として、愛のない空虚な日々を送っていた。

ある日、夫が大阪に4日間出張するが、会社では休暇になっていることを知り彼の浮気に気付く。偶然、かつての学生運動仲間で(彼女が)当時憧れていた伊沢という男から電話が掛かってきたため、彼女は伊沢と会い浮気してしまう。
それがもとで彼女はユスリ屋から継続的に金を要求されることになり、彼女は(ユスリを無効にするため)離婚を決意し、ユスリ屋へ最後の金を渡すべく待ち合わせ場所の北鎌倉・明月院へ向かう…


「地獄で愛した」(連作/燃えつきた奴ら/幕末刺客行/新撰組篇1)

Op.18、巻末サインは19682月、23ページ、単行本未収録

コミックVAN 196